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HECS(オーストラリア 高等教育負担制度)とは

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(25歳以下の日本の男性大卒者が年収316万円程度に対し、オーストラリアは464万円。それでも年収が457万円に達しない内は、奨学金の返還を開始しなくても良い。)[画=photoAC/Hades

前回の記事では、日本の高等教育(大学進学)にかかる費用と、新しい経済政策パッケージでもHECS(ヘックス)が注目されていることに触れました。ここから、HECSと言う制度について詳しく見ていきます。

<<前の記事「奨学金破産とは・日本の大学と家計負担」 

HECS(CSPとHECS-HELP)とは

オーストラリアでは1989年より、高等教育にかかる費用を学生自身の負担を0または一部に留める、HECS(Higher Education Contribution System:高等教育負担制度)が設けられました。

文科省の調査によると、オーストラリアには現在113の大学があり、内私立は36校。国立・公立の大学が全体の7割近くを占めています。(対して日本は、私立大学が全体の約8割 ※日本私立学校振興・共済事業団資料より)

HECSはこれらの国公立大学と一部の私立で適用され、全大学の7割をカバー。その仕組みは簡単にご紹介すると、下記の通り。

 ・オーストラリアまたはニュージーランドの永住権を持っている人が対象

 ・大学進学にかかる学生負担額の水準を設定

 ・大学卒業後一定の所得水準を超えた人から返還開始

 ・所得税額に応じた返金額

 ・返還金は税徴収 

2005年からHECS→CSP、そしてHECS-HELPがスタート

実はニュースで盛んに報道されているHECSは、厳密に言うと2005年から新制度に移行し改称されています。(大枠は変わらないことからHECSの名称が国内ではよく用いられています。)

HECSは現在ではCSPCommonwealth Supported Place(政府支援枠)と改称され、負担額の水準を設定するものと、授業料の後払い+税徴収という教育ローンの特徴を持ったHECS-HELPの2種類に分けられました。

HECS-HELPのHELPHigher Education Loan Programme(高等教育ローン制度)の略です。

HECS(CSP)における学生の負担額

HECS(CSP)では、大学における学生の授業負担額の幅が、それぞれの科目に応じて決められています。オーストラリア政府から発行されているHECS-HELPガイドによれば、年間の負担額は以下のとおり。

 

法学、歯学、薬学、獣医学、会計、経済、商学など $10,596(約90万円)
数学、統計学、科学、コンピュータ、環境、ヘルスケア、工学、農業など $9,050(約77万円)
人文社会学、行動科学、心理学、芸術、外国語、福祉など $6,349(約54万円)

 

各大学はこの価格帯の中で学生負担料を自由に設定できます。(特定の科目に戦略的に学生を集めるため、負担額を0にすることも可能)実際には、ほとんどの大学が上限負担額を提示ています。

オーストラリアで一人暮らしをするには年間約167万円

ANU(オーストラリア国立大学)によると、オーストラリアで一人暮らしをする場合の年間コストは$19,830から(約167万円)とされています。

日本は前回の記事で紹介したように一人暮らしにかかるコストが213万円と試算されていることから、オーストラリアは日本に比べ生活費も年間50万円ほど低いことが分かります。 

HECS-HELPの返済方法 

続いて、オーストラリアにおける教育ローン制度HECS-HELPを見ていきます。

HECS-HELPでは返還開始が所得に連動しています。

課税所得が450万円を超えてから返還開始

HECS-HELPのページによると、課税所得がそれぞれ以下の金額を超えるまでは返還開始が猶予されます。 

2015-2016年度 $54,128(約457万円)
2016-2017年度 $54,869(約464万円)

この金額は課税所得です。保険料や経費などを控除してこの金額なので、実際の収入はもっと高くなります。

随分年収が上がってから返還がはじまるのだな、と感じる方も多いかもしれません。実はオーストラリアでは、初任給が日本と比べものにならないほど高いのです。

25歳以下の大卒者の年収が、残業代や各種手当を含めて男性で$55,000(約464万円)、女性で$50,000(約420万円)。(オーストラリア統計局調べ

昇給率が低いため、生涯賃金に日本と大きな開きが出るわけではありません。返還が開始されるボーダーの課税所得が高額に見えても、実際は多くの学生が卒業後比較的すぐに返還を開始することになります。

こうした、個々の卒業生の所得をどのように把握しているのか。HECSを申請する際には、TFN(タックスファイルナンバー:納税者番号)を提出する必要があります。この番号は就業時にも企業に提出が求められ、日本のマイナンバーに近いもの。TFNを用いることで政府は貸与者の所得を正確に把握し、返還額を決定することができます。

日本は年収300万円以下で返還猶予

これに対し、JASSO(日本学生支援機構)の奨学金は、貸与終了7ヶ月後から返還が開始され、猶予や減額の規定は下記のようになっています。

325万円以下または所得が225万円以下減額

300万円以下または所得が200万円以下猶予(最大10年まで猶予)

注意したいのは、この325万円というのは課税所得ではなく収入ということ。収入が325万円というと、賞与が年2回、月給1ヵ月分がそれぞれ支給されるとして月収は23.2万円程度。年間の手取り額は年280万円程度になります。

ちなみに日本人の大卒者25歳以下の月収は、残業代や手当を含まず男性で月22.6万円、女性で月21.6万円。(厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」

年収は男性で316万円、女性で302万円となり、返還減額、または猶予対象となる可能性が非常に高いことがわかります。

JASSOホームページでは奨学金の金額と年収に応じたシミュレーションを行うことができます。

試しに300万円を有利息奨学金で借り、年収が316万円からスタートして毎年1%ずつ昇給していく計算で試算したところ、定額で毎月1万5,000円弱払い続ければ17年(23歳から払いはじめて払い終わりが40歳)、所得連動で返還月額が決まるタイプなら5年ほどは7千円〜1万円を支払い続け、その後段階的に上がり最終的には22年後(45歳)まで支払いが続く計算となりました。

 

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まとめ

HECSでの返還免除は本人の死亡時のみとされており、何歳になっても返済を求めることが可能ですが、最終的に貸与額の28%は回収ができないと計算されています。

一方、奨学金破産が問題となっている日本では、2019年に返還猶予期限を迎える対象者が10万人いるとされています。問題の解決のためには、単純に給付型奨学金を増やせば良い、というわけではないでしょう。

投資対効果を高めるための大学教育の質向上や、奨学金を受け取る学生側のキャリア教育や金銭教育、そして正規雇用と所得を増やすための経済・雇用からのアプローチ、双方が欠かせないと見ます。

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[文責=くぼようこ]

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