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「釜石の奇跡」の防災教育に学ぶ | 安全教育について考える(1)

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(子どもたちの安全に対する最大の敵は、不審者や災害ではなく、親・学校・地域の大人達の、油断や慢心かもしれない)[画=photoAC/みんと。 

Q.家の中で地震が発生したら?A.まず、机の下に隠れて頭を守る。Q.では、揺れが収まったら次にはどうしますか…?大人になっても、防犯・防災の知識には自信が持てない、という方も多いのではないでしょうか。数回に分けて安全教育について取り上げます。

「釜石の奇跡」の防災教育に学ぶ

2011年3月11日の東日本大震災。高さ20mの津波が襲う中、日頃の防災教育が奏功し、岩手県釜石市の小・中学生99.8%が生存した「釜石の奇跡」が話題になりました。背景にあったのは、群馬大の片田敏孝教授による8年間にわたる学校での防災教育です。

「津波てんでんこ」とは

「津波てんでんこ」の合言葉で、海岸近くで大きな揺れを感じた時には、即座に誰の支持も待たず、より高く遠いところへ逃げるよう教えると共に、周囲を助けること、その場でベストな判断を導く方法を教えました。

WEDGE(2012年4月22日)に掲載された片田教授の寄稿「小中学生の生存率99.8%は奇跡じゃない」をぜひ多くの教育者に読んでいただきたいです。

その中で、安全教育が抱えるソフト面の課題にぶつかった、片田教授の体験が語られていました。

住民はいつの間にか、津波警報が発令されても、結果として「到来した津波は数十センチ」という繰り返しに慣れてしまい、「本当に津波が来たときには、指示された避難所に行けばよい」と思う人が多くなり、さらには「それでも、堤防があるから大丈夫」という油断が生まれていた。

危機意識の低い親ではなく子から変えた

片田教授は釜石で防災意識を高めるため、社会人に向けた講演会を何度か開催したものの、毎回出席するのは、意識の高いごく一部の市民のみ。そこで子ども達から変えていこうと、学校教育に目をつけたと言います。

「津波てんでんこ」は、子ども達にとにかく高い所へ逃げろと教えると同時に、親への教育でもありました。

子どもに対しては「これだけ訓練・準備をしたので、自分は絶対に逃げると親に伝えなさい」と話した。親に対しては子どもの心配をするなと言っても無理なので、むしろ、「子どもを信頼して、まずは逃げてほしい」と伝えた。

片田教授の記事の締めくくりの言葉は、防災教育の重要性を強く読者に訴えかけます。

れだけハードを整備しても、その想定を超える災害は起きうる。最後に頼れるのは、一人ひとりが持つ社会対応力であり、それは教育によって高めることができる。

もし片田教授の取り組みについて触れたことが無い方は、ぜひ記事も読んでみてくださいね。(以下外部サイト「WEDGE」にジャンプ)

wedge.ismedia.jp

学校では安全教育が義務づけられている

そもそも防災教育を含む生徒への安全教育の実施は、学校保険安全法第27条によって義務づけられています。

(学校安全計画の策定等)

第二十七条 学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。

学校安全の推進に関する計画

2012年には、前年の東日本大震災の教訓も受け、5ヶ年計画として「学校安全の推進に関する計画」が打ち出されました。児童・生徒への防災も含んだ安全教育の徹底、体制づくりに向けた方針や計画が示されたものの、進捗は芳しくなく、2017年3月にはさらに5年更新され「第2次学校安全の推進に関する計画」がスタートしています。

安全教育とは

学校での安全教育は、主に3つに分類して考えられます。

生活安全…学内での負傷や通学中や自宅などでの不審者との接触、インターネットを使う上でのリスク、救急対応

交通安全…交通ルールの遵守・中高生では「ながらスマホ」により加害者となるリスクも

災害安全…震災・火災発生時の避難・対応方法

子どもの事故・犯罪被害は減少傾向

第2次学校安全の推進に関する計画」によると、学校管理下での事故・交通事故・犯罪に巻き込まれる割合は減少傾向にあると言います。負傷・疾病の発生件数は約108件あり、中学校が最多、それぞれの年齢で減少が見られる一方で、高校におけるスポーツ・部活での負傷は増加しています。

しかし、減少しているからそれでいいのか。そうではないですよね。ゼロにするまで学校・家庭・地域の取り組みは続けられなければなりません。

安全教育には多くの課題

では今の安全教育には、どのような課題があるのでしょうか。上述した「第2次学校安全の推進に関する計画」を読むと、非常に分かりやすくまとまっています。

・地域、学校・教職員間で知識や関心に差がある

継続しない(喉元過ぎれば熱さ忘れる)

・学校安全計画や危機管理マニュアルを未だに策定していない学校もある

・小学校に比べ中高での安全教育の取り組みが不完全

・危機管理マニュアルが形骸化

SNSなどテクノロジーがもたらす新たなリスクへの対応が必要

・私立学校の校舎の耐震化が大幅に遅れ

安全教育は、関心や協力が得られづらい・ニュースが風化すれば忘れられる、というソフト面での課題が多くを占めていることが分かります。

明日は、発達段階に応じてどのような安全教育が必要かを考えます。

>>次の記事「安全教育について考える(2)」

 

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[文責=くぼようこ]

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