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なぜ米国ではすぐにクビになる? | 随意雇用とは

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(米国企業では、朝出社したら解雇が告げられ、そのまま荷物を持って退社…なんていうことがある、というのは本当?)[画=photoAC/acworks

随意雇用という言葉をご存じですか?アメリカのホワイトカラー採用で主流の「お互いいつ雇用契約をいかなる理由で反故にしても構わない」という決まりのことです。今日は日本の終身雇用制と真逆をいく、米国の随意雇用について見ていきます。

随意雇用とは

米国企業では「いつクビになるか分からない」という話を聞いたことはありますか?ある朝会社に出社すると会議室に呼ばれ、そのまま自席の荷物が入ったダンボールを渡されて解雇が告げられる…。

労働者を即時解雇できる

随意雇用(employment at will)とはこのように、雇用主がいかなる理由でも(例えば上司が部下を嫌いだから・パフォーマンスが悪いから・同僚が根拠のない悪評を立てた etc.)そもそも理由がなかったとしても、労働者を即時解雇できる法律のこと。1900年代から徐々に米国で浸透し、現在は米国労働者の7割がこの原則に基づいて働いていると言われます。

随意雇用の条件

随意雇用は

・雇用期間の定めのない契約
・フルタイムまたはパートタイムの労働者が100名以上計週4,000時間以上稼働している企業

が対象です。つまり、3年など契約期間が最初から約束されている場合は、その期間は守られなくてはなりません。さらに、事務所の閉鎖や大型レイオフなどの場合には、60日前から書名による通知を行わなくてはなりません。

差別に対する法律は厳しい

雇用者はいつでも社員を解雇できる一方、「人種・肌の色・性別・宗教・出身国」で採用、給与、昇進、賞与などあらゆる雇用上の条件面で差別をしてはならない、という法律があります。だから米国では、履歴書に性別を記入するスペースはありません。

例えば転職の面接に来た女性に対し、面接官が子どもの有無を尋ね、今後の予定を聞き、その後特に能力に問題が無かったにも関わらず不採用とした場合、性差別による不当な採用見送りであると訴えられ、敗訴する可能性は十分あります。

日本の終身雇用制度を考える

日本は極めて労働者に対し有利な労働法が制定されています。もちろん随意契約は米国独特のもので、雇用主に非常に有利にできており欧州でも同様のルールはありません。しかし一方で、欧州でも業績の低い社員には解雇を通知することができます。

日本が徹底的に社員を解雇できない理由として「日本は就職ではなく就社が原則。業績の低い社員も配置転換をすることで生かし続ける、企業側の努力が求められるとする記事がありました。(参考:第35章 雇用リスクの日本の非常識 | 国際人事労務管理講座 | 特集・コラム | 異文化研修のリンクグローバルソリューション)つまり、営業でダメなら経理で、経理がダメなら総務で…という具合に、様々な部署をローテーションさせることで、人材を生かすというのが前提なのです。

就社感覚は通用しなくなってきている

就職というのは、その会社のそのポジションに採用される、というのが世界標準。必ず「Scope of work(業務範囲)」が契約時に企業から提示され、社員は提示された賃金に納得の上で働き始めます。

ところが日本の企業は「家族感覚」。日本でいう就職はイコール「就社」で、企業に入社=「身内になる」感覚が非常に強くあります。さらに未だに日本は最高年収に達する年齢が高く、若手は下積みで、会社の様々な仕事を経験しながら年功序列で給与が上がっていく仕組みをとっている企業は少なくありません。

企業側も家族であるという甘えの下で、ある程度賃金を抑えつつ、会社都合で社員の配置換えを行えます。また業績が低い「ぶら下がり社員」を辞めさせることができないため、マルチに働ける高業績社員が養うことになります。

逃げ切る年配者、危機感を抱く若手

ところが問題は、新入社員を定年まで養える日本企業が今後どのくらいあるのか、ということ。定年は60歳どころではなく、今後段階的に引き上げられていくでしょう。(既に一部の企業では65歳)

社会や産業の変化の中で、企業も急速な変化が求められ、新しい技術や時代感覚を持っている人材に集中投資したいのに、旧態依然とした社員を解雇することはできません。また自らの技術や知識が陳腐化していると感じながらも、会社に残り続けることができるなら、ある一定の年齢以上の社員は”守り”に走り、新しく学ぶメリットや危機意識を感じにくくなります。このまでは、企業もろとも沈没してしまう。これが一部の若い世代が感じる閉塞感ではないでしょうか。

 

過激な米国の随意雇用ですが、唯一良い点は、優秀人材に企業も思い切り投資できること。残って欲しい人材には高い待遇を惜しないからです。格差の拡大に対するセーフティネットの強化が必要な一方、人々が上を目指せる環境を作る工夫、競争意識を育てる環境が、社会にも企業にもあっても良いかもしれません。

[文責=くぼようこ]

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