(フランスで2019年度から義務教育を3歳からに引き下げることが発表された。これでフランスでは欧州で最も早く義務教育がスタートすることになる)[画=photoAC/acworks]
教育政策に力を入れるエマヌエル・マクロン大統領が3月27日、フランスにおける義務教育を3歳からに引き下げる方針を幼児教育に関する会議で発表しました。今日はそのニュースに注目します。
仏・義務教育開始年齢引き下げの概要
実はフランスでは3歳児の9割以上は既に幼稚園・幼児学校に通園しています。それでもマクロン大統領が幼児教育を義務教育化した背景には、①格差の是正と②移民・貧困層に対するフランス語教育の強化 があります。
数字で見るフランスの幼児教育
仏ル・モンド紙によると、ブランケール教育大臣はマクロン大統領に続く形で以下のように説明しました。
- 幼稚園・幼児学校に通園する3歳児の割合は現在およそ97.6%
- 2016年度には81万5,241人の内79万5,501人が通園
- 2歳で通園する児童は80万5,784万人の内、11.5%の9万3,360人
- 2・3歳の通園児は2000年からの15年間で減少傾向
- 2000年には100%だった3歳児通園率は2.4%減少
- 2歳児においては34.6%から11.5%と大幅減少
- パリでは93%、コルシカ島は87%の他、一部地域では70%という具合に通園率には地域格差がある
フランスにおける学齢
フランスは「5−4−3」制を敷いており、義務教育はこれまで6〜16歳でした。就学前の児童を対象として2歳からスタートする就学前教育においては、幼稚園も幼児学校も無償となっています。
2.4% 約1万人に見るフランスの移民格差
無償でも幼稚園・幼児学校に通園させてもらえない1万人とはどんな人たちなのか。多くは1920年頃〜74年のフランスの移民政策によって渡仏してきた外国人の3世・4世です。
フランスでは19世紀後半から人口が減少しはじめたため、第一次世界大戦後からは移民の受け入れを促進。第二次世界大戦後の経済成長期には安価な労働力を確保するため移民が一層多く集まってきました。オイルショックの起こった後の1974年には移民停止が決定され、それ以降は国内の移民の帰国促進と社会統合が課題となっていました。
現在ではフランス国民6,700万人の内1割程度が移民ないしはその子どもと見られ、中には字が読めない貧困層も含まれます。そうした貧困層はフランス社会に溶け込むことができず、義務教育の恩恵にも預かることができていません。
マクロン大統領の今回の決定には、義務教育を低年齢からスタートさせることで子どもの代で貧困の連鎖を断ち切り、かつ幼児教育段階からそうした貧困層にもフランス語教育をしっかり行うことで、移民の社会統合を進める狙いがあると見られます。
学齢引き下げで教員数は足りる?
フランスでは幼稚園・幼児学校1クラスあたり人数の上限は25人。たった2.4%といっても、1万人いる非就学幼児を通園させるためには、単純計算で最低でも800人の教員を確保しなくてはなりません。
それに対しフランス政府は、ここ3年間で2016年の1.92から1.88へと出生率が下がったため、就学児も2万人減少したことから、"あぶれた"教員数で賄えるとしています。
欧州の義務教育開始年齢
BBCニュースによると、欧州各国の義務教育開始年齢は以下のとおり。
3歳 : フランス
4歳 : 英領北アイルランド
5歳 :キプロス、イングランド、マルタ、スコットランド、ウェールズ
6歳 :オーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スペイン、スイス、トルコ
7歳 :ブルガリア、エストニア、フィンランド、ラトビア、リトアニア、ポーランド、セルビア、スウェーデン
今回の政策によって、フランスの義務教育開始年齢は欧州で最も若くなります。
今日はフランスの義務教育開始年齢引き下げのニュースを見ていきました。ニュースの背景にはフランスが抱える移民・格差問題が見られます。今回の決定は一般家庭に影響はないものの、今後のフランス社会を担う人材の育成という観点で、非常に重要な役割を担っていることがわかりました。
[文責=くぼようこ]
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