(厚労省が示すモデル就業規則には「労働時間以外をどのように使うかは労働の自由」として副業を制限しない方針が示された。)[画=photoAC/涼風]
昨年2017年、政府が進める「働き方改革」の一環で、副業・兼業が解禁になるとのニュースがありました。このほど2018年1月に、いよいよ厚労省が副業・兼業を推進するためのガイドラインを発表したので、ご紹介します。
会社員の「副業・兼業」を国が促進
今回厚労省が発表したのは、副業・兼業に対する政府の見解、導入にあたっての留意事項などをまとめたガイドラインと、副業・兼業を認める一文を加えた就業規則のモデルです。
政府は2016年9月より働き方改革実現会議を実施。日本人の労働生産性を向上させるため、同一労働同一賃金や、ワークライフバランス、柔軟な働き方などの検討が行われてきました。
その中で副業・兼業は、テレワークも加えた政府が目指す「柔軟な働き方の実現」として、安倍首相自ら重点項目の一つとして挙げる中に含められたのです。
日本は副業・開業意識で世界の中でも後進国
副業・兼業は日本人の潜在的な創業意識を高めるものとしても注目されてきました。
中小企業庁の調べによれば、2006年〜2009年の新規開業によって全雇用の37.6%が賄われ、起業と雇用の創出には重大な相関関係があると見られています。
ところが、OECDが調査している「起業家精神に関する調査(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター:GEM)」によれば、今後起業や開業をしたいと考えている人の割合は、日本は3.8%とOECD諸国の中でも最下位。
終身雇用文化が根強いため、今所属している企業から離れるリスクが大きく、起業に対するポジティブなイメージが抱かれづらいのが一因と考えられます。
そんな中、副業・兼業を推進することで、個人が会社の外で新しい事業の種を見つけ、起業・開業を志す人が増えるのでは、と期待されるわけです。
日本企業の多くは就業規則で副業・兼業を禁止
ところがこれまで、日本企業の多くは就業規則で副業・兼業を禁止していました。
2017年2月にリクルートキャリアが1,147社の企業に対して行なった「兼業・副業に対する企業の意識調査」によれば、副業・兼業を禁止している企業の割合は77.2%にも上りました。
「職務専念義務」という言葉があります。
労働者は会社で自分が担務している仕事に専念しなければならない、という意味です。
多くの就業規則にこの文言が明記され、例えば就業時間中に株取引やFXなどをしてはいけない、副業をしてはいけない、といったことが併記されているわけです。
就業規則とは、労働基準法に則り企業が独自に作成し労基署の許可を得て運用する、その会社で働くにあたってのルールのようなもの。
厚労省では、企業が就業規則を作成するにあたってモデルとなるものを公開しており、今回の解禁では、副業・兼業を容認する一文を新しく加え、更新しています。
副業・兼業に対する政府の見解
では今回のガイドラインや就業規則のモデルについて見ていきましょう。
大きなポイントは、企業は副業・兼業について消極的に「認めても構わない」としたのではなく、積極的に導入すべきで、「労働者の自由として副業・兼業を必要以上に制限してはならない」とされた点です。
勤務時間外をどう利用するかは労働者の自由
厚労省が示したガイドラインでは、労働者が就業時間以外の時間をどう利用するかは、その労働者の自由であり、副業・兼業の制限は原則制限できません。
裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合と考えられる。
具体的に企業が副業・兼業を制限することができるのは、就業規則のモデルによると、
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合
となります。
しかし必要以上に制限することは認められません。
労働者本人が副業・兼業で得られるメリット
副業・兼業が可能になると、どんなメリットがあるのでしょうか。
- (単純に)所得が増加する
- 自己実現ができる
- 新しい領域の知識やスキル、経験を得ることができる
- 新しいキャリアを拓ける
- 就業しながらなので、リスクを最小限に起業・開業の準備ができる
などが考えられます。
しかし一方で、週あたりの就業時間が増えるので、健康管理は重要です。
また、本業に迷惑をかけない(機密を漏洩しない、競合となる企業で働かない、副業の事情で本業を休まない)などの配慮が必要になります。
副業・兼業で企業が得られるメリット
副業・兼業の解禁で、企業側にも得られるメリットがあります。
- 社外で社員が知識、スキルを自ら獲得してくる
- 自己実現欲が満たされ、社員の離職を防げる
- 柔軟な働き方を好む優秀な人材を獲得できる
- 社員が副業で得た新しい事業アイデアを通じ、新規事業の開拓できる
などです。
社員が副業・兼業することによって、本業から離脱してしまうのではないか、という点は経営者にとって大きな懸念となります。
しかし、その社員が実現したい事業が会社として支援可能なものであれば、新規事業として社内起業を容認することもできます。
社会の変革やテクノロジーの進化に対して、社内で起業家精神を育むのは、企業組織にとってもプラスになると考えられています。
副業・兼業の事例
2016年2月、ロート製薬の副業容認に注目が集まった
ロート製薬が、新しいCI発表の場で、社内制度の一つとして発表した「社外チャレンジワーク制度」。
発表された多くの社内制度のあくまで一つ、という位置付けでしたが、当時「副業・兼業をロート製薬が解禁した」として大いに話題になりました。ロート製薬では社内での部署兼務も容認しており、社員発起の人事改革プロジェクトの一つとして、他企業にも先駆けて実現した形となりました。
ソフトバンク・コニカミノルタ・DeNAが副業解禁を発表
2017年10月には、ソフトバンクが副業の解禁を発表しました。会社に事前に許可を得ることで副業が行えるようにする、というものです。
翌11月より導入され、130人の応募があったといいますが、全て会社の許可が下りたわけではないようです。朝日新聞の取材によれば、パン屋やコンビニの店員などは却下され、大学講師や俳優、NPOの役員など自己啓発や自己実現など目的が定まったもののみ許可されているようです。
DeNAでも10月より副業を解禁。これはDeNAで推進している「フルスイング」と呼ばれる人事プロジェクトの一環で、副業の他にも業務の30%まで他部署の業務と兼務できる制度などと共に運用されています。
コニカミノルタも2017年12月から副業を解禁。イノベーションを創出する人材の育成として、特に会社経営やコンサルタント、ITプログラマーとしての副業を通じ、社外でスキルアップすることを奨励しています。
カゴメも2019年に副業解禁、決算会見で寺田社長が言及
最近では2018年2月1日に行われたカゴメの決算会見の場で、寺田社長が「2019年には副業も解禁する」とコメントする一幕もありました。
カゴメでは働き方改革に取り組んでおり、2020年までには社員の総労働時間を1980時間から1800時間へと圧縮、有給取得率を7割から8割へ高める定量目標を発表しています。
まとめ
OJT(On-The-Job-Training)という言葉があります。実務を通じた職業訓練、社員教育の一つ方法で、企業では一般的に行われています。
これまでは企業が命じた社員が期間限定で出向する、研修として派遣されることは多くありました。
副業・兼業を、社員が自主的に社外に出向し経験を積むことと捉えれば、活用者が節度を守れば企業にもプラスがあります。
社会に出てから再び大学や教育機関で教育を受けるリカレント教育とはまた別の形で、副業を通じ学んでキャリアを拓く、新しい学びのあり方として、副業・兼業が今後広く利活用されていくことを期待します。
[文責=くぼようこ]
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