(レジャーとしての短期留学ではなく、学生達が海外の優れた知識・技術を学びに行くための仕組みの強化が必要だ。)[画=photoAC/acworks]
前回記事では、SGU創成支援事業とは何か、世界の大学ランキングにおける日本の順位と評価の実情、トップ型グローバル大学を見ていきました。今回はSGU事業もう一つの支援の枠組みである、「グローバル化牽引型」のグローバル教育を実施する大学について見ていきます。
「グローバル化牽引型」大学とは
SGU(スーパーグローバル大学)創成支援事業には、大学としての国際競争力を高め、世界の大学ランキング100位以内を目指す「トップ型」とは別に、特色ある授業・取り組みを通じ、日本の国際化を推進する「グローバル化牽引型」の枠があります。
「トップ型」は最大年間5億円の補助金が得られます。
一方「グローバル化牽引型」は入学定員規模数に応じ、1,000人以上の場合は年間3億円、下回る場合は2億円が支給限度額となっています。
採択校は24校
補助金が採択されている大学は以下の24校です。
千葉大学、東京外国語大学、東京藝術大学、長岡技術科学大学、金沢大学、豊橋技術科学大学、京都工芸繊維大学、奈良先端科学技術大学院大学、岡山大学、熊本大学、国際教養大学、会津大学、国際基督教大学、芝浦工業大学、上智大学、東洋大学、法政大学、明治大学、立教大学、創価大学、国際大学、立命館大学、関西学院大学、立命館アジア太平洋大学
グローバル化牽引型校の取り組み
留学生を増やすためには、主に①英語で受講できるコースを増やすこと(コース新設・外国人教員の採用強化と職員の英語力の増進)②ジョイント・ディグリーやダブルディグリー取得が可能なコースの新設 ③留学生のキャリアサポートや学生交流などのソフト面の強化の3つが重要となります。
「ジョイント・ディグリー」「ダブル・ディグリー」とは
文科省のWebサイトによると、以下のように定義されています。
留学しても、自分が出身国で在籍している大学の単位に認定されない、留学先の大学での学位にならない、などのことがあると、留学生本人にとってはその留学がただの体験学習に止まり、学歴に繋がらないことからマイナスです。
したがって、双方の大学で共通する学位、あるいはそれぞれの大学で別個の学位が取得できるようにするのが、このジョイント・ディグリー、ダブル・ディグリーというわけです。
「ジョイント・ディグリー」:統合された学修プログラムを提供する2又はそれ以上の機関により発行される単一の学位記。学士課程、修士課程、博士課程の単一の学位記は全ての参加大学の学長により署名され、各国の学位記を代替するものと認定される。
「ダブル・ディグリー」:統合された学修プログラムにかかわる大学によりそれぞれ発行される、2枚の各国において認定される学位記
(参考:文部科学省Webサイトより)
立命館大学の取り組み
では各大学ではどのような取り組みが行われているのか、京都の立命館大学を例に見ていきます。
立命館大学は姉妹校の立命館アジア太平洋大学と共に、グローバル化牽引型校として採択を受けています。
資料によると、立命館大学本体の構想は、アジアの中でリーダーシップを発揮するイノベーション人材や高度な科学技術の担い手である高度人材を育成すること。そのため、年間4億円程度の事業費を掛けています。
立命館大の構想に向けた具体的な数値目標は、2023年までに日本人学生の海外留学数を年間3,200名とすること、海外からの留学生受入を年間4,500名とすることなどが挙げられています。
英語コースの新設については、立命館大学ではまずは大学院から英語コースの拡充を進め、2023年までには学部も全体の3割、3コースを英語コースで提供できる体制づくりをスタートしています。
ジョイント・ディグリーやダブル・ディグリーについては、アメリカン大学やSOAS(東洋アフリカ研究学院)大、モナシュ大、アルバータ大学などとの連携を強化し、双方の学生をお互いの大学に誘致しています。
短期留学で世界を"体験"する日本の大学生
今日はSGU(スーパーグローバル大学)の「グローバル化牽引型」大学についてと、その主な取り組みを見ていきました。
日本では、長期海外留学者よりも、数週間〜数ヶ月程度、語学留学やホームステイなど「海外体験型」として短期留学する学生が圧倒的に多い傾向があります。
筆者自身も元採用責任者として何人もの短期留学経験者の学生と話をしたことがありますが、「海外滞在を体験し異文化交流してみること」に重きが置かれ、遊びに近い印象を受ける方が多かったのも事実です。
筆者自身も大学生時代に数週間ホームステイをしましたが、これは一つのレジャーであったと認識しています。まさしくこの記事の冒頭に掲載されいる写真画像のようなイメージ、それが今の日本の大学生にとっての「楽しい留学」なのではないでしょうか。
その背景には「海外の優れた知識技術を学びに行く」ための留学を促進するスキームの不足があると考えます。
その学生自身が、大学生活において何を探求していきたいのか、という研究目的が希薄で、海外で学習する動機付けが不十分であることも一因でしょうし、大学側も十分に機会を提供できていないこともあるでしょう。
成果と進捗を数値化しやすいため英語学習が強化される一方で、いわゆる「話したいことが無いため英語が話せない」状態、英語力はあるのに専門領域がない、ということにならないよう、指導・教育の一層の向上が求められます。
[文責=くぼようこ]
※ Educediaは主宰者の研究・論考を目的としています。記事に含まれる情報は、読者の皆様ご自身の責任においてご利用ください。また、本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性があります。
他、転載や引用については「サイトポリシー」をご覧ください。
[関連記事]
▽記事のアップデートや注目のトピックスをご紹介します。