(日本のユネスコスクール数は世界随一。防災・環境問題・高齢化など、日本社会が抱える問題は数多く、持続可能な社会を実現するための教育が重視されている。)[画=photoAC/はむぱん]
国連が2015年に採決したSDGs(2030年までの持続可能な開発目標)の達成に向け、教育も重要な役割を果たしています。今日は持続可能な開発教育(ESD)を実践するユネスコスクールに注目します。
ユネスコスクールとは
ユネスコスクールとは、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関) の理念を実現するため、平和・国際連携教育を実践する学校のことです。
世界180ヶ国1万校あり、日本国内にあるのは2017年10月時点で1,034校。日本が世界で最も加盟校の多い国です。
公立・私立問わず、ESD(持続可能な開発のための教育)を実践している学校で、ユネスコに英文の申請書を提出し審査をパスすれば、認定校として認められます。
ESD(持続可能な開発のための教育)とは
ESD(Education for Sustinable Divelopment)は日本が旗振り役となり、2005年に国連総会で採択された「持続可能な開発のための教育の10年」によって示されました。
環境、貧困、人権、平和、開発など、世界の現代的な諸問題を理解し、課題解決に通じるアクションが取れる、持続可能な社会の担い手を育む教育です。
ユネスコスクールで学ぶこと
主に以下の4つの領域の教育が推進されます。(ユネスコスクールWebサイトより)
1)地球規模の問題に対する国連システムの理解
貧困、飢餓、失業、エイズ、環境汚染、気候変動、識字、文化、ジェンダー(性差)、児童就労など国連・ユネスコの優先分野に関連し学びを深め、国際協力の重要性を認識
2)人権、民主主義の理解と促進
人種差別、偏見、民主主義など
3)異文化理解
他国の学生・保護者との情報交換や大使館・他国の文化センターとの連携を通じ、習慣・伝統・価値観に対する理解を深める
4)環境教育
汚染、エネルギー、森林保護、海洋・大気研究、土壌浸食、天然資源保護、砂漠化、温室効果、持続可能な開発など
補足すると、これらの学習は決して海外の発展途上国に関する学習が目的ではない、ということです。
いずれも自分たちが住んでいる町や都道府県など、周辺環境の理解や抱える課題に対する理解を出発点として学習が進められます。また、ESDの重要性は学習指導要領にも明記されており、スタンダードな学習内容から外れるものでもありません。
特定の科目に依らず、各教科にまたがり学習を進めることとなります。それでは具体的な取り組みについて見てみましょう。
国内のユネスコスクールでの取組事例
福岡県大牟田市
2012年より大牟田市では市立小中学校・特別支援学校34校全てがユネスコスクールに加盟しています。市を挙げての取り組みが高く評価され、2017年、第9回ユネスコ全国大会 文部科学大臣賞も受賞しました。
世界文化遺産や地域、環境や福祉をテーマに、自分とのつながりのある身近な課題について学習していくことで、自分たちの住む地域を大切に感じ、まちづくりの一員として、自分ができることは何かを考え、行動できる子どもを育みます。
(参考:大牟田市ESD紹介チラシ)
大牟田では、世界遺産学習、地域学習、環境学習、福祉学習、海洋教育に力を入れています。特に海洋教育では東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センターと協定を結び、市内の3つの学校で世界文化遺産である三池港や有明海を教材として研究活動を実施。具体的には、有池港を高速船で移動しながらの調査、調べ学習の成果をポスターセッションの形式で発表するフォーラムの開催などを行なっています。
国内優良事例
ここからはユネスコスクールのグッド・プラクティスのページで紹介されている事例から、いくつか紹介します。
気仙沼市立白山小学校
タイトル「地域に伝わる『白山太鼓』の未来への継承の工夫」
伝統文化の継続がテーマ。気仙沼の打囃子のルーツと言われる白山太鼓が、中心指導者の高齢化などによって存続の危機にある中、演奏会の開催などを通じ、子ども達と保存会が中心となって保存活動に取り組んでいます。
気仙沼市階上中学校
タイトル「私たちは未来の防災戦士~持続可能な社会のために~」
「自助」「公助」「共助」をテーマに、気仙沼の20年後の防災教育リーダーを育成するための教育を実施。津波のメカニズムの学習、応急手当やAED使用などの救急救命活動や非常食調理実習、災害発生時に地域の一員として何ができるかを考えるなどの防災・災害時教育を行なっています。
※気仙沼では東日本大震災によって津波の被害を受けながらも、限定的ながらESDの取り組みを続け、震災の翌年2012年には韓国からも教職員を招き気仙沼地域のユネスコスクール交流会を開催しました。
新潟市立巻東中学校
タイトル「ほたるの保護活動からみる環境問題と米百俵を送った側からの地域遺産」
田園が広がる自然豊かな地域にある巻東中学校では、ホタルの保護活動のための森林ボランティア活動を実施。また地域のお年寄りに教わりながら、米作り・俵作りを行い、作った俵は東日本大震災で被害にあった宮城県の中学校などに義援米として送りました。米俵作りを通じ、生徒達は環境問題についても学習しました。
広島県立安芸府中高等学校
タイトル「平和をテーマとした海外姉妹校との交流」
国際科において豪・米の姉妹校との国際交流に力を入れています。海外研修やシンガポールからのインターン生による講演、ブラジルの高校生との交流、青年海外協力隊OBによる講演会などを実施し、国際平和について考える機会を設けています。
香川県立高松桜井高等学校
タイトル「全校生徒参加による『ヒートアイランド現象』調査」
校内の環境委員会や生徒会が中心となり、教職員・生徒一丸となって「ヒートアイランド現象」の研究・調査に取り組んでいます。また有志で全校生徒から環境リーダーを募り、養成研修を実施しています。
ここまで見てきたようにユネスコスクールでの学習は、国際理解のみに留まらず、まず自国や自分の地域の課題を認識し、市民の一員としてどう課題解決に取り組むかを考えさせるものです。
「伝統の継承」「高齢化」「海洋汚染やヒートアイランドなどの環境問題」「防災」など、地域の特色や日本全体が抱える課題は多く、自分事として取り組む青少年の育成が推進されています。
[文責=くぼようこ]
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