(ここ10年で誕生した子どもの半数は100歳以上まで生きると予想される。健康寿命が伸び"引退"の無い社会で、私たちはどんなキャリアを描き、どう生きれば良いのか?)[画=photoAC/サンサン]
世界で最も早く超高齢化社会に突入すると見られる日本。現在政府は「人生100年時代」をキーワードに、教育や雇用の問題に取り組んでいます。今日は超高齢化社会を生きる私たちに数々の示唆を与えてくれる書籍「LIFE SHIFT」についてまとめます。
健康寿命が伸びている
「LIFE SHIFT(ライフシフト)」の提言の出発点は、人々の健康寿命が伸びているというデータ。
カリフォルニア大学バークレー校のHuman Mortality Database(人類死亡データベース)から試算すると、今の若者の平均寿命は下記のようになるといいます。
・2007年生まれ(現在11歳)の半数は107歳まで生きる
・1997年生まれ(現在21歳)の半数は101歳まで生きる
・1987年生まれ(現在31歳)の半数は98〜100歳
・1977年生まれ(現在41歳)の半数は95〜98歳
健康寿命が伸びていくことで、若々しい60歳が増える一方、お金の問題が出てきます。
卒業→就職→定年の一斉行進型人生の終焉
仮に100歳まで生きていたとして、60歳に定年退職してしまうと、残り40年を無収入で暮らしていくことになります。
どれだけ貯金をしていたとしても、やがて底を突いてしまうことでしょう。だからこそ、健康に60歳以上も<緩やかに>働き続けることが必要になります。
著者のリンダ・グラットン氏は、LIFE SHIFT(ライフシフト)の中で、1945年生まれ(現在73歳)、1971年生まれ(現在47歳)、1998年生まれ(現在20歳)の3つの世代の生き方をテーマに、その人生を描写しました。
1945年生まれは従来どおりの大学卒業→就職→60歳定年退職でも、平均寿命が70歳前後のため問題ありません。
ところが1971年生まれは平均寿命が85歳となり、親世代の生き方の踏襲では後々経済的に苦しい局面を迎えることになります。
1998年生まれは100歳以上生きる可能性が高く、完全に異なる「マルチステージ」の生き方を模索する必要が出てきます。
マルチステージの生き方
著者リンダ・グラットン氏の言う「マルチステージ」の生き方とは、就労・起業や個人事業・学習・休暇・家庭など様々な人生のステージを、繰り返したり並行させたりしながら生きることです。
今20歳の人が100歳を寿命とするなら、70〜80歳まで働き続けないと貯金が不足する恐れがあります。しかし今の時代、50年一つの会社で働き続けるのは難しいでしょう。また、社会が変われば自分自身が持っているスキルや知識も陳腐化します。
そこで、就労を通じ形のある資産を育む一方で、途中で知識・スキルをアップデートしたり、友人や家庭との触れ合いの時間を持ったりと、無形資産を蓄えるステージを迎えることが重要だと言います。
いくつものステージを迎えながら、少しずつ自身のキャリアを見直したり、軌道修正したりするわけです。
雇用・教育・夫婦関係に変化が求められる
50〜60代の、現在産業界や政治の世界で最もパワーを持っている世代は、大学を卒業してから「よーいドン!」で走りはじめ、20代・30代・40代を駆け抜け、今、人生の集大成を迎えようとしています。
しかし現在の20〜40代はそうはいきません。ゴールまでの距離が伸びた分、いかに息切れせずに走り続けられるかが重要になるわけです。そうした人生では、時に立ち止まることや、周囲を見渡す時も必要でしょう。
企業には、社会人が仕事を離れて学ぶ・家庭に入る期間を「ブランク」と見なし追放するのではなく、キャリアの一部として認めることが求められます。
「よーいドン!」で走り続けてきた世代が社会で実権を握る間は、なかなか実現は難しいかもしれません。政府が雇用の弾力化を目指そうにも、かえって社会の中で格差を生み出す方向に進んでしまうかもしれません。
しかし若い働き手は今、年代や社員・フリーランスの垣根を超え様々な人と協働する、新しいパートナーシップを学ぶ必要があります。そうして自身が成熟した頃、マルチステージを生きる全ての世代にとって、生きやすい社会が実現する可能性があります。
そのためには、今の若い世代が、上の世代によって築かれてきた「ステレオタイプ」に囚われないことです。雇用も教育も変えていく必要があります。男性が仕事、女性は家庭、というような単純な夫婦関係も、変わらざるをえないでしょう。
まとめ
こうした変化の中で、現在の50〜60歳の方々には、ぜひ定年後も、その知識を若い人に教えたり、家庭や地域を支援したりしながら、下の世代に世代間を超え働き学び合うことを教えていただきたいと思います。
また現在の30〜40歳は、自分自身の老後のためにも、世代を超えた交流や企業の外の人々とのパートナーシップを学習していきたいものです。人生を大いに模索し、自分が50・60歳になった際に、下の世代が多様な働き方・生き方ができるように。マルチステージ型人生の時代を切り拓いていくのは、まさに今の30〜40代なのです。
80歳まで働き続ける、というと身構えてしまいますが、様々なステージを経験し、自身の可能性を生涯広げていく、というのはチャレンジングで魅力的なこと。今の30代・40代が変わることで、日本社会の今後のあり方は大きく変わっていくことでしょう。
[文責=くぼようこ]
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