Educedia(エデュケディア)

"教育"をテーマに日々ニュースやキーワードを解説します。

社会性と感情の学習「SEL(対人関係能力育成)」とは

f:id:educedia:20180418182240j:plain

(自己を理解・コントロールし、多様性のある環境で相互理解や問題解決のできる児童を育てるSELに注目。)[画=photoAC/ちゃぁみい

社会性や感情のコントロールなど、対人関係構築スキルを身につけるSEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング:対人関係能力育成)が米国の学校で広がっています。今日はSELとは何かを見ていきます。

SEL(対人関係能力育成)とは

SELはSocial and Emotional Larningの略で、日本語訳では「対人関係能力育成」とも「社会性と感情の教育」とも呼ばれています。

和訳すると道徳的な授業や、いじめ・非行の防止などをイメージしやすくなりますが、米国では子ども達が学業や人生において成功を掴むための一つの重要な教育法として注目されています。実際にSELによって学業成果が11%のアップした、というデータもあります。

以下はスター・ウォーズの元監督ジョージ・ルーカス氏の創設した教育基金 George Lucas Educational Foundationが運営しているメディア「edutopia」にアップされているSELに関するビデオ。

ビデオでは、SELを1994年から推進しているシカゴの非営利団体CARSELのディレクターや、SELを授業で取り入れているスクールの教員達が、SELで育む5つの力についてそしてそれぞれどのように学校現場で育成しようとしているのかを解説しています。

SELにおいて重要な5つの力

SELでは、①Self Awareness(自己の理解)②Self Management(セルフマネジメント)③Social Awareness(社会や他者の理解)④Relationship Skill(対人関係スキル)⑤Responsible Decision Making(責任ある意思決定)の5つの能力を、クラスルーム・学校・家庭や地域社会の中で育んでいきます。それぞれの力についてCARSELのWebサイトを参考に見ていきましょう。

Self Awareness(自己の理解)

自分の感情や思考を理解し、それが自分の他者に対する態度や行動にどのように影響しているかを理解すること。そして自分の強みや限界を確かな自信とともに育むことです。感情の確立、正確な自己の知覚、強みの承認、自信と自分自身に対する信頼、自己有能感などが挙げられます。

Self Management(セルフマネジメント)

難しい環境に遭っても、自分自身の感情や思考、態度をコントロールすること。衝動のコントロール、ストレス・マネージメント、自らを律する力、セルフ・モチベーション、個人の人生や学業のゴールを自ら設定する力、自らを統合する力が挙げられます。

Social Awareness(社会や他者の理解)

多様なバックグラウンドや文化を持つ他者に対して共感する力です。家族や学校、地域コミュ二ティなどを承認し、倫理的・社会的に深い理解ができる状態です。他者の視点を想像する力、共感力、ダイバーシティに対する高い理解と評価、他者を尊敬する心が挙げられます。

Relationship Skill(対人関係スキル)

多様な人々と関わるグループにおいて、他者と適切に関係を構築・維持する力です。具体的には、簡潔なコミュニケーション力、傾聴力、不適切な社会的圧力に対する抵抗、課題や紛争解決に向けた交渉力、他者を必要に応じて助けられること。コミュニケーション力、社会とのエンゲージメント、関係構築、チームワークなどが挙げられます。

Responsible Decision Making(責任ある意思決定) 

人が良く生きるために自らの責任で意思決定する力のこと。倫理基準や安全性への配慮、社会的な標準に則って、建設的な選択ができる力や、自らの行動が招いた結果を客観的に評価できることです。問題の特定や課題設定、状況の分析、問題解決、評価、他者からの反響の受容、倫理的責任が挙げられます。

教室でのSEL指導例

これらの能力(コンピテンシー)を培うために、教室ではどのように生徒にアプローチをすれば良いのか。前出のedutopiaに13のアクティビティについて紹介されていますので、ここでは一部を紹介します。

ウォーミングアップには例えば瞑想を通じたマインドフルネスを取り入れたり、今の感情を言葉で表現し生徒間で共有したり。「Quoto of the day(今日の”   ”)」というアクティビティでは教員が例えば「コミュニティの中での暴力」をテーマにしたとして、生徒同士のディスカッションをファシリテートします。また、自分の幼少期の写真を持ち寄り互いに誰の幼少時代かを当てるクイズもあります。

授業の中盤では、これまであまり話したことのない友人同士でペアを組ませ、お互いに自己紹介と質問をし、最後に他己紹介を行う、あるいは生徒を円形に座らせてディスカッションをさせる「サークル・シェアリング」などを行います。教員が本を題材に、生徒たちに意見を求めるような授業もあります。

そしてクロージングには「今日の感謝、謝罪、アハ体験」と題し、授業の中で他生徒への感謝や謝罪、発見や驚きについて紹介させ終了です。

まとめ

米国におけるSELは、ここまで見てきたように、コンピテンシーの整理や、教員や学校・学区での取り組みを評価するためのアセスメントツールなど、メソッドが比較的体系化されており、研究と実践が進んでいます。また単純な非行・いじめの防止などではなく、学校でのSEL強化が社会人人生においても有効に生かされることを想定し、総合的に学習成果を高めることを目標としています。ただし検定教科書のようなものはなく、教科でもないため、授業での取り扱いについては、教員の自主的な学びと研究によるところも大きいようです。

日本国内では、道徳が「特別の教科」とされ、週に1回授業で必ず取り扱われるようになりました。日本の道徳は定量評価ではなく定性評価であり、かつ道徳を通じ育む力についても米国のSELほど目標・目的がシャープではなく広範に及びます。米国のSELの方が、より生きる力に繋がる指導が多く見られることから、日本国内での研究価値は高そうです。

[文責=くぼようこ]

 Educediaは主宰者の研究・論考を目的としています。記事に含まれる情報は、読者の皆様ご自身の責任においてご利用ください。また、本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性があります。

他、転載や引用については「サイトポリシー」をご覧ください。

[関連記事]

www.educedia.org

www.educedia.org
www.educedia.org

▽記事のアップデート情報や注目のトピックスをお知らせしています

twitter.com

※Educediaは主宰者の研究・論考を目的としています。記事に含まれる情報は、読者の皆様ご自身の責任においてご利用ください。また、本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性があります。 他、転載や引用についてはサイトポリシーをご覧ください。