(モンテッソーリ教育やシュタイナー教育と比較すると、まだまだ国内知名度は低いイエナプラン教育。2019年には長野県で初のイエナプラン校が開校する予定。)[画=photoAC/acworks]
ユニセフの調査で子どもの幸福度が世界一と言われた(2013年12月調査)オランダで、人気のあるオルタナティブ教育の「イエナプラン教育」。今日は国際JenaPlan協会Webサイトや日本イエナプラン協会Webサイトを参考に紹介します。
イエナプラン教育とは
イエナプラン教育とは、欧州で人気のあるオルタナティブ教育の一つ。主に4歳〜12歳の初等教育段階や就学前の子どもたちを対象としています。
1900年代のはじめにドイツのイエナ大学教育学教授のペーター・ペターゼンが提唱した教育法が基になり、その後1960年代からオランダに広がりました。現在オランダには、200校以上のイエナプラン小学校があります。オランダにはモンテッソーリ、ドルトン、フレネ、シュタイナーと様々なオルタナティブ教育のスクールがある中で、イエナプランの学校が最大数。オランダ式のイエナプランは世界的にも主流とされています。
教室はリビングルーム
イエナプランにはいくつか特徴的な教育方法があります。その一つは生徒の学習空間も教育の重要な要素と位置づけ、教室をリビングルームとして捉えていること。教員→生徒という一方向で授業を進めるのではなく、生徒が集って議論をする、共同で作業をすることに重きを置いているため、コミュニケーションや子ども達の思考や創意工夫が生まれる空間を目指しているのです。
そのためイエナプラン教育における教室は、日本の学校のそれとは異なり、様々なスペースがあります。日本の教室は「スクール形式」と呼ばれる、教員が黒板を背景に生徒たちの方を向き、生徒は教員の方向をただ一方向に向くのみです。
一方でイエナプラン教育では、いつでも子どもたちが椅子を持ち寄って、車座になって議論ができるスペースづくりや、集合し作業できるスペース、読書やパソコンのコーナー、クラス「らしさ」を表現するディスプレイコーナーが設けられています。
複数の年次で一つのクラス
生徒は年次をまたがり在籍し、さながら兄弟のように上が下の面倒を見ながら学習を進めます。生徒たちは4〜6歳、6〜9歳、9〜12歳と、年齢に応じて3つのステージに分けられ、一つのクラスになります。3学年ずつがまとめられているので、それぞれのステージで年少→年中→年長と経験していくのです。以下イエナプラン校の雰囲気が分かるビデオを見ると、2歳上の年長が年少に教えてあげる様子が分かります。
サークル・ディスカッション
SEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)をはじめ、様々なところで注目されている車座での生徒同士の対話・ディスカッションが、イエナプラン教育でも重視されています。リビングに例えられた教室も、このサークルになっての授業が進めやすくなる作りになっています。
イエナプラン教育では、授業のコマという概念がありません。イエナプラン教育では「サークル・ディスカッション」や「仕事」と呼ばれる学習の時間、音楽や演劇などの活動を通じて学習する「遊び」の時間、「セレブレーション(行事・催し)」の4種類の時間を循環させながら授業が進みます。
ペタゴジー(教育学的アプローチ)
イエナプラン教育では「ペタゴジー」というキーワードがしばしば登場します。子どもに対する教育学的アプローチを意味しており、子どもの発達に応じ、教員が子どもたちの思考や議論を促す形で授業をリードしていく手法です。日本ではアクティブ・ラーニング(主体的・対話的で深い学び)が新学習指導要領に盛り込まれ注目されていますが、イエナプランにおける教員の生徒に対するアプローチ方法には、学ぶ点が多くあります。
ワールドオリエンテーション
イエナプラン教育においては、社会と理科の区別がありません。日本の総合学習の時間と似た位置付けの「ワールドオリエンテーション」という科目になります。ワールドオリエンテーションには、例えば働くことや消費活動、環境・地理、技術、時間の移ろいや、共生や持続可能性・コミュニケーションについて学び、社会への理解を深め、自身の人生について考える活動が含まれます。
イエナプラン20の原則
イエナプランにはその教育哲学とも言うべき、育成する人間や社会に対する10の原則と、学校に言及した10の原則、合計で20の原則があります。ここではその20の原則を紹介します。
- 1.人は皆ユニークである
- 2.人は皆自らのアイデンティティを開発する権利がある
- 3.人は皆人との交流を通じ社会的・文化的・内面的な自らのアイデンティティを確立する
- 4.人は皆人格や可能性を承認されるべき
- 5.人は皆文化的なイノベーターとして認められるべき
- 6.人は人の尊厳を保証する社会の実現のために働かなければならない
- 7.人は誰にでも個々人のアイデンティティを確立する機会・刺激を提供する社会の実現に向け働くべきである
- 8.人は平和的・建設的な方法で異なる背景の人々が共生する社会を実現しなくてはならない
- 9.人は他者への敬意と支援のある社会のために働くべきである
- 10.人は次の世代のために自然的・文化的な資産を責任を持って培わなくてはならない
- 11.学校は社会に対する影響を自覚し、生徒の自主性と協調性を培う
- 12.学校では教職員は教育学的(ペタゴジカル)アプローチを行う
- 13.カリキュラムは子ども達の内面的な体験や社会的・文化的な発育のために開発される
- 14.教育は教育学的シチュエーションにおいて、教育学的教材を用いて行われる
- 15.学校教育は対話・遊び・仕事・セレブレーションの4種類の活動をリズミカルに行う
- 16.子ども達は年次やスキルなど異なるグループの中で過ごす
- 17.教員は支援的な教育を通じ、生徒が自ら高次の学習に取り組むよう刺激する
- 18.ワールドオリエンテーションは、世界を知る上で重要な学習内容と位置付ける
- 19.学校は生徒個人の発達度合いをもって評価される
- 20.イエナプラン学校での教育は首尾一貫・双方向的なアプローチを通じ永続的に行われなくてはならない
今日はイエナプランについて見ていきました。
[文責=くぼようこ]
※ Educediaは主宰者の研究・論考を目的としています。記事に含まれる情報は、読者の皆様ご自身の責任においてご利用ください。また、本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性があります。
他、転載や引用については「サイトポリシー」をご覧ください。
[関連記事]
▽記事のアップデート情報や注目のトピックスをお知らせしています