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早期教育に意味はある? | 脳について知る(4)

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(早期教育に科学的根拠はないものの、言語習得は幼少からの教育が効果的という説も。特にアクセントや発音などは12歳までが学習に向いている。)[画=photoAC/ちゃあみぃ

人の学習について脳科学の見地から研究し、教育手法などを考えようとする学問を「教育神経科学」というそうです。今日はOECD教育研究革新センター編著「脳からみた学習(2010年12月)」を読み、興味深かった内容をまとめます。

幼年期の教育は重要・ただしそれが全てではない

脳について知る(1)の記事でも紹介したように、人間の脳にある神経細胞同士の繋がり「シナプス」の回路は、生後8ヶ月までに一気に増え、その後「刈り込み」と呼ばれる不要な弱体化・除去が進み、10歳で大人とほぼ変わらないところまで減少します。

早期教育には科学的根拠はない

新しい刺激を受けると特定のシナプスの回路が強化され、使わない回路は除去されていくことから、早期教育が重要であると言われてきました。

ところが、特定の早期教育が一定の効果に結びついた、という実証があるわけではないので、早期教育自体に科学的裏付けがあるわけではありません。

しかし以前記事で紹介したモンテッソーリ教育など、幼児期の多感な頃に様々なアプローチで刺激を与えようという教育方法は、科学的裏付けがあるわけでは無いものの、少なくともマイナスの効果があるわけではなさそうです。

また日本はようやく幼保無償化に向け動き出しましたが、欧州の多くは既に幼稚園・保育園は無償です。これは母親のキャリア維持だけではなく、幼年期からの教育の重要性が(科学的な根拠の有無に関わらず)以前から注目されていたためとも考えられます。

幼児期に不可欠なのは愛情と健全な発育環境

脳に多様な刺激を与えるためには、両親とのスキンシップや、様々な物事に触れて五感をよく使うこと、脳と身体を健全つ保つために栄養バランスの良い食事や適切な睡眠時間、ストレスの無い環境が脳育の鍵を握るようです。

以前記事で、貧困家庭の子ども達の学力格差には、背景に家庭環境があると指摘されている、と紹介しました。脳科学の視点からも幼児期の荒んだ家庭環境が、子どもの学力に悪影響を及ぼすことが明らかにされているわけです。

「臨界期」はないが「感受期」はある

しばしば脳には特定の年齢までに学習をしなければその後発達が難しくなるという「臨界期」というものが言われてきましたが、臨界期は科学の世界では現在ほとんど時代遅れのようです。むしろ「感受期」と呼ばれる、特定の物事に敏感で、吸収効率の良い時期というのはあるようです。

言語学習は幼年期が効率が良い

例えば言語について。語彙は生涯にわたって覚えられるようですが、12歳頃までがアクセント・発音を学ぶには良いとされています。また子どもは誕生して10ヶ月までは英語のrとlが聞き分けられるなど、細かい発音の違いも聞き分けられるとされています。

フランスは移民2世・3世の社会統合のため、義務教育を3歳から引き下げることを発表しました。移民の中にはフランス語を習得できていない人々が多く、賃金格差の根っこになっているそうです。義務化によってこうした移民の子ども達も早くからフランス語に接することができるので、一定の期待ができそうです。

脳の生涯学習機能「可塑性」とは

脳のシナプスの数は10歳になる頃までに安定し、その後も脳自体の成長は続き、成人を迎えるまでにほぼ完成すると見られています。しかし完成したらその後変化しないわけではありません。

シナプスに電気信号が流れる度に特定の回路は強化され、脳は鍛えられていきます。これを「可塑性」と言います。逆に脳を使わなければその分衰退していくことは実証されています。

リカレント教育は脳科学の視点からも有意義

人は徐々に記憶力や新しいことを暗記することに10代の頃よりも難しさを感じるようになっていきますが、その代わりに脳や知識の引き出し方は上達していきます。

人生100年時代、身体が元気でも脳機能が低下してしまっては良い人生は送れません。社会人になってからも人生の様々なステージで学習を行う「リカレント教育」は脳科学の見地からも合理性があると考えられます。

前頭前野の成長は10代後半まで続く

脳について知る(2)で紹介したように、人間の大脳前方にある「前頭葉」の中でも特に前頭前野は計画性や社会性を担う部分と言われています。

前頭前野は10代後半まで発達過程にあり、自己中心性や自己陶酔などのようないわゆる「中二病」と言われるような振る舞いや、注意散漫や友人関係の苦悩、うつなどが見られると言われます。

「馬力はあるが操作性は悪い」10代の脳

10代ドライバーの方が、成人ドライバーと比較しても自動車事故が多く見られるそう。脳科学者によれば、10代の脳は様々な物事を吸収できるため「馬力はある」が発達段階にあり「操作性が悪い」と言われています。

18歳成人が2018年3月に閣議決定し、2022年4月からの施行に向け今国会での成立が目指されている中。このような脳科学の観点からも、18歳に判断を委ねて良いこと、そうではないことを慎重に議論すべきでしょう。

 

今日は学習と脳の発達について、OECDの書籍から紐解いていきました。筆者が興味を持っている学問分野の一つが、ようやく「教育神経学」と呼ばれる領域ということが分かりました。教育神経学について今後も学習を続けると共に、心の面では認知心理学にも関心があるため、そちらも取り上げていきたいと思います。

[文責=くぼようこ]

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