(大学で国外に出るのか、日本国内にいるのであればどのように英語を生かすのか。早期に外国語を教育するための方法は増えているが、その先にどんな人生を目指すのか、受け皿は未成熟だ。)[画=photoAC/sayoko]
授業のほとんどが英語で行われる「イマージョン教育」を知っていますか?インターナショナルスクールではなく私立学校などで導入されている外国語教育・国際理解教育の一つです。今日はイマージョン教育について見ていきます。
イマージョン教育とは
イマージョン教育は国語以外の教科を英語で学習する教育法のこと。
はじまりは1960年代カナダ。英仏2ヶ国語を話す人が多い中で、英語に加えフランス語教育のため実践されるようになりました。
近しい教育方法に、米国のCBI(Content-Based Instruction:内容重視型教育)、ヨーロッパのCLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)があります。
ちなみに似た響きの用語で「インクルージョン教育・インクルーシブ教育」がありますが、こちらは障がいを持つ子どもが、通常学級で一緒に教育を受けることを指します。
イマージョン教育の特徴
イマージョン教育は幼児教育段階からはじまり、小学校・中学・高校と続いていきます。
学校ではネイティブスピーカーの教師が、国語以外の、実技を含む教科を英語で教えます。生徒と教師は英語で話をし、授業で日本語は一切使わず、子どもの理解が追いつかない場合はジェスチャーやイラストなどを通じて理解を促します。
子どもたちには文法を正しく教え込むのではなく、英語で自由に表現することを重視。毎日浴びるほど英語を聞き・英語で学ぶことで、母国語と同じように自ずと覚えていく環境を作っています。
大人は「"私は幸せだった"は過去形だからI...was happy」と考えますが、イマージョン教育を受ける子どもたちは感覚的に I was happy が出てくるのです。
CBIとCLILとの違い
イマージョン教育と米国のCBIは非常に似ています。一方で、ヨーロッパのCLILとはしばしば違いが指摘されています。
米国のCBIはイマージョン教育同様、幼児期からスタートし、教科を外国語で学習するものです。授業を外国語で聞くだけではなく、意見を外国語で表現する、議論する授業を通じて、良質なインプットとアウトプットを担保するとしています。
一方ヨーロッパのCLILは中学校など、母国語が定着してから学習が始められます。CLILでは「translanguaging(トランスランゲージング)」と呼び、母国語と外国語を併用しながら授業を進めるのが主流。教科を学びながら外国語も学ぶ、というスタンスです。
幼少期から外国語を学習する是非
このように、イマージョン教育やCBIでは初等教育から外国語で授業が進むのに対し、CLILでは中等教育段階からはじまり、尚且つ教材は母国語。母国語と外国語を交えながら学習するスタイルです。
3者の違いの背景には、幼少期から外国語を習得することに関する、異なる意見があると考えられます。
1つは、外国語教育の早期教育が有用だと考えるもの。神経科学上、発音やアクセントを学習するのは12歳までが良いとされています。したがって、ナチュラルに外国語も話すようになるためには小学校で学習をスタートさせた方が良いというものです。
もう1つは、外国語の早期教育によって第一言語を通じた深い思考ができなくなるのでは、と考えるものです。読み書きではなく思考するための言語には深い表現や語彙が要求されますが、外国語を混ぜて学習することで、思考の言語が散漫になるという見方です。
前者は確かに発音やアクセントの学習は12歳までがベストとは言われるものの、語彙や文法の学習は生涯可能と言われています。後者は早期に外国語を習得しても国語の成績は変わらなかった、むしろ一般の学生よりも高い偏差値を出している、と反発する意見もあります。
日本国内のイマージョン教育学校
国内のイマージョン学校で先駆けは1992年に開校した加藤学園暁秀初等学校。加藤学園ではバランスの良い外国語教育を目指し、国語以外全てを英語にするわけではなく、算数・理科・生活など一部の教科に限っています。日本語と英語の割合は1:1程度です。
群馬県太田市にあるぐんま国際アカデミーは国際バカロレア(IB)の認定校。一部日本語によるバカロレア授業が認められるようになったものの、日本国内で先駆けてIB教育を始めた学校は基本科目を英語で教える学校が主流。したがって、IBに則り教科を英語で学習するぐんま国際アカデミーは、教科を英語で学習するイマージョン教育の実践校と言えるでしょう。
今日はイマージョン教育について見ていきました。
学習指導要領の改訂や大学入学共通テストにおける英語の4技能重視など、英語教育の早期化やより実践的に使えるスキルを評価する授業や試験の導入が進む日本。当然イマージョン教育も注目が集まりますが、一方でしばしば言われるのが「英語を学んだ後にどうするか?」ということ。
大学で国外に出るのか、日本国内にいるのであればどのように英語を生かすのか。海外の大学の学費は生活費も含めれば日本よりよっぽど高く(国民であれば無料であるケースもありますが留学生に対しては学費は決して安くない)、高い投資をして留学し海外で生きていくのか、日本国内に戻るならばそれをどう生かすのか、アウトプットが判然としない中でやみくもに英語を学習するのは意味がなく、親子でよく研究する必要があります。
[文責=くぼようこ]
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