(ベーシックインカムでは貧富の差がかえって拡大する可能性があるとOECD調査書が報告。)[画=photoAC/さとう310]
全国民に最低水準の所得を保障するベーシックインカムが注目されていますが、英国では2013年より導入されている新しい生活保護制度「ユニバーサル・クレジット制度」の方が、有効であるとの見方(OECD調査報告書)もあります。今日はユニバーサル・クレジット制度について。
ユニバーサル・クレジット制度とは
英国で2013年より、複雑な福祉制度を単純化するために段階的に導入されている「ユニバーサル・クレジット制度」。
制度のポイントは
①複数の福祉手当を一本化
②手当を受給し続けるより働く方が収入が上がる仕組み
③一定期間以上就労しないと罰則規定
の3点。
では詳細を見ていきましょう。
複数の福祉手当を一本化
これまでイギリスでは、様々な福祉手当があり、一つ一つに事務手続きや受給資格審査・給付が行われていました。
ユニバーサル・クレジット制度では、それらを統廃合することで、福祉手続きをシンプルにする狙いがあります。
具体的には、低所得者向けの所得補助や雇用・生活補助手当、各種税額控除、住宅給付が一本化され、基本的な所得保障を行う基本手当と、子どもや障がいの有無によって決定される付加手当という構造になります。
働く方が収入が上がる
旧来の制度では就労することで収入を得ると、保障による給付額が下がるため、働いても働かなくても収入が変わらない、という状況を生み出していました。
そこでユニバーサル・クレジット制度では、就労の有無に関わらず、短時間でも働いた方が所得が広がるよう、保障の給付減額率を引き下げるようにしています。
一定期間就労しないと罰則
一方で、失業者・就労時間が週16時間未満の人に支給される求職者手当については、これまで期間無制限に支給していましたが、12ヶ月の上限を設け、それを過ぎても仕事に就くことができない場合は、非営利団体などで週30時間まで、4週間の就労義務が与えられることとなります。
また、上記就労義務や求職活動など必要な活動を行わなかった場合は、最大で3年間、支給が停止される罰則もあります。
ベーシックインカムとの比較
OECDが2018年2月に発表した調査報告書によると、ベーシックインカムの導入は所得格差を拡大し貧困を招き、ユニバーサル・クレジット制度の方が効果的とされています。
▽「ベーシックインカム」とは?という方はこちら
例えばベーシックインカムの場合はジニ係数(所得分配の不平等)が0.4%ポイント上がり、貧困率は11.4%から14.1%へ上がり、15万人が新たに貧困ラインに達すと見られています。
一方ユニバーサル・クレジット制度の場合は、ジニ係数が0.9%ポイント下がり、9万人が貧困から脱し、貧困率は1.7%減少し9.7%になるとされています。
今日はユニバーサル・クレジット制度について見ていきました。
日本の生活補助は、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、介護扶助、医療扶助、出産扶助、葬祭扶助があります。さらに生活保護でなくても、傷病手当や休職手当など、手当にもさまざまな種類や受給基準があり、複雑な点は同じ。
公的扶助の目的を明確にし、手続きはシンプル明瞭であることが重要です。日本でも、本人の自立を促し、窓口担当者の主観を排除し数値を基に等しく支給される制度が望まれます。
[文責=くぼようこ]
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