(法定労働時間は1日8時間なのに、なぜ残業は無くならない?知らない間に同僚が会社と協定を結んでいるかもしれない…)[画=photoAC/胡麻麩あざらし]
企業が労働者を働かせる際、労働基準法上は1日8時間と定められています。では残業がある場合にはどうするのか?社員の代表と「36協定」を結べば、通常は1月45時間、特別な時期にはそれ以上の残業をさせることが可能になります。今日はそんな「36協定」について。
36協定とは
36協定の正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」。
1日8時間を超える労働が発生する場合には、社員と残業時間や割増賃金について協定を結ぶよう、労働基準法の第36条で定められていることから、通称「36協定(サブロク協定)」と呼ばれています。
労働基準法第36条
労働基準法の第36条には、簡単にまとめると以下のようなことが書かれています。
- 36協定を社員と結べば労働時間を延長し休日労働もさせられる
- 厚労省は延長される労働時間の上限や賃金の割増規定を定める
さらに次の第37条では、賃金の割増率について以下のように定めています。
- 月60時間未満の残業や休日労働については25%〜50%の間で割増賃金が発生
- 月60時間以上の残業・休日労働については50%の割増賃金が発生
ちなみにこの月60時間以上の残業・休日労働で50%の割増賃金が発生する件は、平成22年の改正労働基準法で中小企業は対象外とされてきました。
しかし今年平成30年の働き方改革関連法案には、中小企業も対象に含まれる旨が追加されています。
36協定があれば何時間残業させても良い?
では36協定さえあれば、企業側は社員をいくらでも働かせることが可能なのでしょうか?
平成10年労働省告示第154号(平成22年改正)の「時間外労働の制度に関する基準」によると、一般的な社員であれば残業時間の上限は1ヶ月45時間までとされています。
(参考:時間外労働の制度に関する基準 | 平成27年厚労省・都道府県労働局・労働基準監督署)
ただし特別条項付き協定を結べば残業時間を増やせる
通常の36協定では1ヶ月45時間、1年360時間が時間外労働時間の上限です。これならば、1日あたり2時間ちょっとの残業で済む筈です。でも実態は、そんなものではないのではないでしょうか?
実は36協定にはもう一つ特別な協定があり、繁忙期などの事由によって1年間の半分まで(6ヶ月)、残業時間の上限を45時間以上とすることが可能です。これを「特別条項付き協定」といいます。
平成30年「働き方改革関連法案」で、ようやくこの「特別条項付き協定」において設定できる残業時間の上限が月60時間と定められる方向で動いていますが、これまでは上限はありませんでした。
▼働き方改革関連法案についてはコチラ
www.educedia.org企業が参考にしたのは過労死ライン
そこで残業時間の上限として企業が参考にしたのが「過労死ライン」。
労災認定の一つの基準として見なされている、1ヶ月の残業時間が所定を上回ると心身の健康に悪影響を及ぼす時間です。
1ヶ月単月なら100時間以上、複数月であれば80時間とされています。
さすがに過労死ラインぴったりに設定するのは問題があるので、特別条項付き協定で設定されているのは月60時間あたりが多いようです。
誰が会社と協定を結ぶのか
そんな36協定ですが「自分は会社とそんな協定結んだことないけどな…」と思う方がほとんどなのでは?
実は36協定は、従業員の過半数が所属する労働組合、それが無ければ労働者の過半数を代表する社員と結ぶことが会社に義務付けられています。
会社と協定を結ぶことができる社員は、社員の中でも「管理監督者以外」と定められています。
よって、例えば人事部長や総務部長などはNGですが、営業課長や店長などはその対象となる可能性は十分にあります。
ちなみに、協定を結ぶ社員が企業の指名で選出されるのはNG。投票や挙手による信任など、民主的な方法によって選ばれなければならない、とされています。ところが、労組が無い企業で、真面目に代表社員の投票をしている会社はそう多くはないでしょう。
残業時間のギモンを解明!
残業のルールの基盤となっている36協定について分かったところで、もう一歩踏み込んで、残業制度を見ていきます。そこで個人的な筆者の関心として、残業時間のギモンについて調べてみました。
管理職になると残業代はナシ?
労働基準法の第41条には、残業時間の上限や割増賃金(残業代)などの定めは、管理監督者には適用されない、とされています。
管理職というと民間企業は課長職以上。では課長になると残業時間の上限や残業代は無くなるのでしょうか?
実は、管理監督者≠管理職とは限りません。管理監督者というのは、①経営者と一体の立場で仕事をしている、②出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない、③その地位にふさわしい待遇がなされていることが条件です。(参考:東京労働局「しっかりマスター労働基準法 -管理監督者編-」)
よって課長職以上であっても、自由に始業・終業時間を定められず、経営者と一体の立場がなく、ふさわしい待遇がないのであれば、残業代は支払われ、残業時間の上限は守られなければなりません。
それにも関わらず、就業時間を定められた権限の少ない「名ばかり課長」が企業内に増え、残業時間や残業代の定めが守られないケースが多く問題となっていました。
早朝出勤も残業に含まれる?
定時前に出勤することを早朝出勤と言いますが、例え始業前の社内研修、着替えや朝礼、打ち合わせ、オフィス内の清掃、ラジオ体操なども業務と見なされ、これも時間外労働に含みます。
企業によっては定時前出勤を残業時間に含めないところもありますが、早朝出勤も残業代支払いの対象に含まれるので、注意が必要です。
深夜手当てって?
深夜22時〜朝方5時までの勤務は深夜労働と言い、深夜手当がつけられます。分かりやすいのは東京労働局の以下資料ですね。
深夜に働くだけであれば賃金の割増率は25%になるだけなのですが、さらにそれが残業だった場合は、残業分の割増率25%が上乗せされるので、50%の割増率となります。
(参考:東京労働局「しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-」)
ちなみに伊藤忠商事では、早朝出勤を促すために、定時前の出勤に50%の割増賃金率をかける取り組みをしていて、話題になっていますよね。
通常朝5時以降は深夜手当の対象外ですが、早朝の出勤に(残業手当+深夜手当)と同じだけの割増率をつけたことで、社員も早朝出勤にメリットを感じるようになったわけです。
今日は36協定や残業、割増賃金などの仕組みについて見ていきました。
[文責=くぼようこ]
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