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フィンランドの気になるICT事情| フィンランドに教育視察に行ってみた(3)

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(スクリーンにVR、ビデオチャットサービス。フィンランドの教育現場では積極的にICTが取り入れられている)[くぼようこ撮影]

2018年9月末、フィンランド(ヨエンスー・ヘルシンキ)へ教育視察に行ってきました。本稿では現地での視察レポートをお届けします。【注…本稿では現地で見聞きした事柄について紹介します。自治体や学校の裁量で行われていることも含まれるため、紹介している情報=フィンランド全土のスタンダードではないことを予めご理解ください】

ICT活用が進むフィンランド

フィンランドにとどまらず、北欧は冬になると日照時間が限られるため、人々は外に出るよりも家の中でいかに快適に過ごすかを大事にしている、と聞いたことがあります。 だからこそ、デジタル化が進んだ現代においては、フィンランドの人たちは、外に出ずに如何にネットで済ますか、が生活上大事なポイントなんだとか。

電車やヘルシンキ市内を走るトラムのパスも、ネットでクレジットカード購入して、求められたらアプリの画面を提示するだけ。

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市内200箇所以上のレンタサイクルのポイントでは、アプリとPINコードで自転車が借りられます。 公営サウナだってネットで事前予約、クレジットカード支払いでした。

小学校の電子黒板導入率が100%

そんなフィンランドの学校で私がまず驚いたのは、電子黒板の浸透率。 小学校では100%電子黒板が採用されているそう!

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先進的な東フィンランド大系列の小学校では当然、大きなスクリーンがクラス内にセットされており、プロジェクターも短焦点。

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 廊下にもモニターが複数セットされ、私が訪問した時は、ちょうどもう一台追加されようとしている時でした。

VRを使った授業への挑戦

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さらには教室でVRグラスのオキュラスも発見! QRコードをスマホで読むと、博物館の中をVRで体験することができるアプリを体験させてもらいました。

VR体験が学習にどのような影響を及ぼすかはまだ研究段階出そうですが、インパクトのある楽しい体験を通じて、この博物館のアプリの場合は子どもたちが歴史に興味を持ってもらうことが狙いのようです。

一般的な小学校でもICT環境は充実

さて、教育研究も並行して行われている東フィンランド大学はともかくとして、一般的な小学校のICT環境はどうか。

ヨエンスーから80kmほど離れた街にあるOtto Kotilainen primary country schoolを訪れた際にも、電子黒板&廊下のモニターが当たり前のようにセットされていました。
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ちょうど授業は、教科横断で行われる日本でいうところの総合学習の時間のような、「プロジェクト学習」の時間。 生徒は学校から貸与されたパソコンを1人1台使用し、先生から与えられた課題に取り組んでいるところでした。

ところが途中でネットワークがうまく機能しなくなり、課題は急きょ変更に。どうやらその日は複数の学校を見ているICT環境を支援するスタッフが長期休暇中のようで、トラブルを解決できないとのこと。諦めて一足早い休憩時間に入ることになったのでした。

日本の学校でのICT活用は?

ちなみに日本でも、2014年〜2017年の4年間で6,700億円以上をかけて、教育のICT化が推進されています。

電子黒板(2018年度の予算計画から「大型提示装置」と言い換えられるようになっています)の普及率は、2017年3月時点で全小学校・中学校・高校の4分の1程度。約24.4%の教室に導入されています。パソコンは1人1台が理想ですが、2017年3月時点では5.9人に1台程度。教室内の無線LAN整備率も29.6%と、整備はこれからです。

参考:文部科学省 平成30年度 教育の情報化関係予算(案)

ICTが僻地の学校運営を助ける?

また、フィンランドの学校では、学校の財政難や生徒の減少に対し、ICTが活用されている、という話も聞きました。

これまたヨエンスーから車で1時間ほど離れた街にあるOutokumpu Upper Secondary Schoolという高校に訪問した時のこと。

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(くぼようこ撮影)

その学校は元々坑夫の家庭の子どもたちが通う学校でしたが、今は炭鉱も閉鎖され、近年フィンランド全体の人口が減少していることも相まって、生徒数も減少しているという話でした。

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(くぼようこ撮影)

フィンランドでは政府からの教育費支援が圧縮され、15年ほど前から小さな学校は閉鎖されるようになり、生徒数が90名に満たないこの学校でも、いかに学校を維持するかが課題となっています。

そうした中で、小規模な学校でも限られた予算で質の高い教育を行うために用いられているのが、テレビ会議システムの「zoom」。最近は日本企業でも使用するところが増えていますね。

この高校は専任の教員が9名+小学校教諭と兼任している先生が数名という体制で授業を行っています。教科横断型の授業を行う、専門的な授業を行う際には、周辺の他の高校とzoomを使って教室を繋ぎ、それぞれの高校に在籍している教員がテレビ会議越しに授業を行うんだそうです。

まとめ

フィンランドでは学校教育は無償ですが、国民の税金負担を基盤にしているからといって財源が潤沢なわけではなく、教育に対する政府の支援額は減少する一方です。

自治体の学校経営が苦しくなる中、財政的に厳しい学校は、教科書や学校設備は代々使い回し。もともと、中古で賄えるところは賄うという考え方の中で、現代ではデジタルで賄えるところは賄う、ということだと理解しました。

景気がけして良いわけではない、というフィンランド。実は若年層(15〜24歳)の失業率は22.4%。4人に1人が職を失う厳しい現実があります。

そんなフィンランドでは、比較的、起業に対する人々の意識のハードルが低い様子。

次回はフィンランドの「アントレプレナーシップ」がテーマです。

[文責=くぼようこ]

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