(1,700名の卒業生の中には、時価総額1,000億円以上の企業を立ち上げた才能豊かなクリエイターも。若手イノベーターを育成する「未踏事業」に注目。)[画=photoAC/サンサン]
世界を席巻する革新的なサービスやプロダクトの創出に向け、経産省、文科省それぞれイノベーターやアントレプレナーの育成事業に取り組んでいます。今日は経産省の事業「未踏事業」について。
未踏IT人材発掘・育成事業とは
未踏IT人材発掘・育成事業(通称「未踏事業」)は、行政支援の下、日本から第2のスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグを輩出しようというチャレンジのこと。経済産業省所管の政策実施機関である独立行政法人IPA(情報処理推進機構)が取り組んでいます。日経新聞の報道によれば、未踏出身者が立ち上げた企業の時価総額は合計で5,000億円にも上ります。
未踏事業の概要
未踏事業はこれまで1,700名近い人材を輩出。スマートニュースの鈴木健代表、グノシーの福島良典代表も「未踏」出身者です。
「未踏IT人材発掘・育成事業」は25歳未満のテクノロジー領域の研究開発や事業化を志す若者が対象で、採択されると9ヶ間大学研究者や起業家などのメンター(PM:プロジェクトマネジャー)による指導と、最大230万円程度の委託費を受け取れます。自らシステムやサービス・アプリなどを構築できる、工学などにも長けているような大学・大学院生が対象です。
「未踏」の意味
未踏という言葉が意味するのは、「世の中を変えていけるようなイノベーティブ(革新)性・ディスラプティブ(創造的破壊)性・バリュークリエイティブ(価値創造)性」。未踏事業ではITテクノロジーを活用し、このような新しいシステム・サービス・プロダクトを生み出すことを目的としています。
目指すはシリコンバレーに負けないエコシステム
また未踏事業は、単にお金を出し・メンターの助言指導をつけるだけではなく、日本にシリコンバレーに負けない「イノベーションのエコシステム」を作り出すことが目標。そこでメンターやOBOGなどによる講演会・イベントなど、諸先輩の智恵に触れる機会・ネットワーキングの場も提供しています。
さらに2014年11月には未踏事業のPM総括も務める竹内郁雄氏とOBOGによって一般社団法人未踏が立ち上げられ、富士通など企業の協賛の下、個人・法人会員を募り人的交流や契約・知財などのインフラ整備に取り組んでいます。
アドバンスド事業・ジュニア事業も
未踏には3種類のプログラムがあります。25歳未満を対象とした「未踏IT人材発掘・育成事業」、年齢制限なしで起業や事業化を前提とする「未踏アドバンスド事業」、そして一般社団法人未踏が主催する、17歳未満の中高生と対象とした「未踏ジュニア」です。違いを見ると以下のとおり。
・未踏アドバンスド事業…年齢制限なし/事業化や起業が前提/サービス開発への助言を行うPMと投資家などの観点から事業化も含めた助言・支援を行うビジネスアドバイザーがいる/支援は年間1,000万円まで・プロジェクト構成員の時給換算で4,000円/人、1人200時間が上限
・未踏ジュニア事業…17歳以下対象/年間50万円が開発支援金として提供/資金に加え開発工作設備も支援あり/メンターとなるのは未踏出身の若手
尚、未踏ジュニア事業の代表を務めるのは、未踏出身でマイクロソフト・マインクラフトエデュケーションにてプログラムマネージャーを務め、現在文科省にてプログラミング教育のプロジェクトも牽引する鵜飼佑氏。STEM教育、プログラミング教育にも良いシナジーを与えそうです。
(筆者コメント:鵜飼氏の翔泳社のEdTechZine上の連載も非常に学びが多いので、興味のある方はぜひどうぞ。)
未踏プロジェクトマネージャー
未踏事業の注目ポイントは、PM(プロジェクトマネージャー)の豪華さ。未踏+アドバンスドも含めると、例えばこのような方々が登場します。
・竹内郁雄氏…東京大学名誉教授。NTTグループで技術研究員として長年活躍。鬼才のハッカーとの呼び声高く、最も古いプログラミング言語の一つで独特の書き方をすることでも知られる"Lisp"の神とも言われる方です。
・夏野剛氏…NTTドコモでiモードの立ち上げを手がけ、現在はドワンゴでの顧問・取締役や大学院での授業、執筆とマルチに活躍。
・石黒浩氏…大阪大学教授でアンドロイド研究の第一人者。一般にはマツコ・デラックスさんそっくりのアンドロイド「マツコロイド」 を作ったことでも知られ、自身と双子のように瓜二つなアンドロイド「ジェミノイド」の開発を通じ、人間理解を深める研究には、国際社会も注目しています。
そのほか、トヨタが2016年に先端研究を目的にシリコンバレーに設立した研究機関、トヨタ・リサーチ・インスティテュートのCEO、そしてこの2018年3月に東京にも設立されたトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスド・ディベロップメントのCEOもアドバイザーを務めます。
錚々たる顔ぶれによる強力バックアップを受け、輩出された未踏卒業生の中には、様々なアイデアで世の中をワッと湧かせている若きイノベーター達がいます。
明日は未踏クリエイター達の中で毎年10名前後が認定される、スーパークリエイタ達の発表事例に注目します。
[文責=くぼようこ]
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