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記憶の仕組み | 認知科学の基本(1)

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(2本の並んだ線は同じ長さなのに、なぜ片方だけ長く見えるのだろう?)[画=photoAC/acworks

認知科学の基本を学ぶにあたり、今日は東京大学出版会「教養としての認知科学(鈴木宗昭著)」を参照します。

認知科学とは

認知科学とは、知性の仕組みを知る学問。書籍によれば、

知的システムにおける構造、機能、発生における情報の流れを科学的に下がる学問

と説明されています。

人間にしろ他の動物や人口知能にしろ、知性のあるものについて、情報がどのようにインプットされ、処理されるのかを分析・研究する学問です。

ミュラー・リヤー錯視

例えばよく認知科学で用いられる錯視を例にとります。

下図の線は全く同じ長さ。でも、両端の斜線の向きによって、長さは異なって見えます。

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実際の線は同じ長さなのに、異なる長さだと認識してしまうのはなぜか。

人が物を見るときは、同時にその物を心の中(頭の中)に描いています。その際に、自分からは見えない部分も想像し、補う働きがあります。

例えばここに、1個のりんごがあります。

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[画=photoAC/ロベルト・ガビシャン

私たちからは林檎の片面しか見えていませんが、見えていない部分を存在しないとは思っていません。

背後に回り込んでみれば、同じような林檎の球体の側面が見える、となんとなく認識しています。

こうした人の認識(=認知)について研究するのが、認知科学です。

さまざまな記憶の種類

認知科学では、人の学習・記憶をさまざまに分類しています。一つは、意図して記憶したかどうか、そして記憶自体の定着どです。

偶発的学習・意図的学習

1歳半を過ぎた子どもは、1日に10単語ほど覚えていくそうです。

親が気づくと、子どもは教わってもいないのに、「しまじろう」「あんぱんまん」と好きなキャラクターの名前を呼び、親の真似をして「もしもし?」などと耳に手をあてて誰かとおしゃべりしていますよね。

こうした日常生活の中で自然に覚えてしまうことを「偶発的学習」と呼びます。

一方、例えば試験対策のために暗記カードを作ってめくりながら学ぶなどは、「意図的学習」と呼ばれます。こちらは覚えようとして、努力して覚えているわけです。

感覚記憶

人の記憶は記憶が保持される時間の長さに応じて、「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」の3段階に分けられます。

まず五感によって情報のキャッチが行われ、視覚情報は0.5秒〜1秒、聴覚は5秒、残像のように残ります。 これが感覚記憶です。

この時点では、本人はそれが何であるかまでは分析できていません。瞬間的に視界に飛び込んできたものを認識している状況です。

神経科学では、海馬がこうした感覚記憶をキャッチするとしています。

短期記憶(ワーキングメモリ)

五感でキャッチされた情報(感覚記憶)はその中から印象的な情報だけが削ぎ落とされ、短期記憶(ワーキングメモリ)に移されます。

短期記憶は瞬間的に暗記された記憶です。例えば電話口で顧客の電話番号を暗記する、というような。

人は「7±2」程度の情報しか瞬間的に覚えられないといいます。例えば電話番号のような、関連性のない数字の羅列であれば7±2ケタまで、人の名前であれば7±2名分、という具合です。

この短期記憶は別にワーキングメモリ(作業記憶)とも呼ばれ、人が物事を考える・検討する際に一度知識を広げる場所でもあります。

ワーキングメモリは神経科学で言うところの前頭連合野の働きに依るものです。

長期記憶

短期記憶の中からさらに一部の記憶は、その人の頭の中に定着していきます。これを「長期記憶」と言います。

人の長期記憶には、例えば物語で覚える「エピソード記憶」、意味や概念を理解する「意味記憶」、身体で覚える「手続き記憶」があります。

エピソード記憶

例えば自宅で何か物を失くしたとします。「最後にアレを使ったのはいつだっけ?」から「その後何をしたんだっけ?」と思い返していく内に「そうだった、クローゼットから服を取り出す時に置いたんだった」と自分の1日の物語に沿って、思い出していきます。

このような体験や物語に応じて定着する記憶をエピソード記憶と言います。

意味記憶

意味記憶はそのものの意味と一緒に覚えていくことです。例えば年号などのランダムな数字だけを覚えて、と言われてもなかなか難しいですが、「1192(いい国)作ろう鎌倉幕府」といった語呂合わせによって、意味も含めると覚えやすくなります。

手続き記憶

手続き記憶は身体に落とし込まれた記憶です。無意識化された動作などを指します。

例えば寝ている状態から上体を起こすのに、立ち上がるのに、歩き出すのに、意識して行う人はいません。腹筋に力を込める、背から徐々に腰を伸ばす…などの身体の動きは、考えるまでもなく当たり前のように行われています。

このように、無意識な動作などに関わるのは神経科学では小脳の働きと言われます。

 

ここまで、記憶というものについて、意図するか・しないか、保持される時間の違いによる、記憶の分類を見ていきました。

 

加えて、人によって物事を記憶する方法は異なると言われています。

例えば、身の回りに、物事を映像で覚えているタイプの人はいませんか?

人によって、音で覚えるのが得意な人、映像で覚えるのが得意な人、文章で覚えるのが得意な人、など記憶のしやすさには特性があり、これを「認知特性」と呼びます。

明日は「認知特性」について見ていきます。

[文責=くぼようこ]

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