(自宅にいながら世界のエリート大学の授業が無料で受講できる、オンライン動画授業「MOOC」に注目。)[画=photoAC/ガイム]
2006年、ヘッジファンドアナリストだったサルマン・カーンは、いとこの子どもたちの家庭教師役としてYouTube上に学習ビデオをアップロードしました。その動画は話題になり、やがて「カーン・アカデミー」として一大動画授業サイトへと成長します。今日は無料のオンライン動画授業サービス「MOOC(ムーク)」について。
MOOCとは?
MOOC(Massive Open Online Courses: ムーク)とは、オンライン上で不特定多数の人々に公開された、動画授業のプラットフォームこと。
前述したカーン・アカデミー以外にも、国内外で数多くのサイトが公開されています。その特徴は①多くが無料または低価格 ②ネットで視聴可 ③コンテンツの内容が小学生向け授業から生涯学習まで幅広いこと。
非営利団体、大学、企業、個人などがそれぞれのプラットフォームにコンテンツを提供しています。今日は代表的なサイトを紹介します。
カーン・アカデミー(KHANACADEMY)
URL:https://www.khanacademy.org/
対象:小学生〜高校生
言語:英語・日本語・スペイン語・フランス語など17ヶ国語以上
費用:無料
内容:算数・数学、理科工学、コンピューティング、人文学、経済・金融、試験対策(SAT、MCAT、GMAT、IIT JEE、NCLEX-RN)※ただし英語コンテンツ
MOOCに一躍注目が集まったきっかけとなったサイト。2,000本以上のビデオがアップロードされ、登録者は190ヶ国5,000万人。月に800万人が利用し、1日で20万本のビデオが再生されています。
サイトでは、動画内に映し出された黒板上で授業が進んでいきます。カーン・アカデミーは学校を補完する存在となっており、家庭での自習以外の用途として、授業で教員が利用することもあります。一般の授業以外にも、NASAやMoMA、MITなどが特別授業も提供しています。
コーセラ(COURSERA)
対象:大学生以上・生涯教育
言語:英語
費用:$29〜$99
内容:人文学、ビジネス、コンピュータサイエンス、データサイエンス、情報科学、生活科学、数学、自己啓発、物理・工学、社会科学、語学、学位取得・修了証
スタンフォード大学やミシガン大学など149校のパートナー大学とIBMやGoogleなどのパートナー企業から授業動画が提供され、2,500万人のユーザーが学習。
授業は細かい単元を1本ずつ学んでいくというよりも、2ヶ月程度で履修可能なコースが用意されています。2,000を超えるコースがあり、学位を取得することも可能です。日本ではZ会が販売代理店を務めており、Webサイトから割引価格でサービスを利用することが可能です。
エデックス(edX)
対象:大学生以上・生涯教育
言語:英語・スペイン語(他 提供大学の言語による)
費用:原則無料、修了証発行に$50〜150
内容:建築、美術、デザイン、音楽、哲学、コンピュータサイエンス、データサイエンス、ビジネス・経営、語学、経済・金融、工学、人文学、教育、化学、生物・社会科学、健康、食、薬学 など
2012年にハーバード大学とMITの教授によって立ち上げられたサービスで、幅広いジャンルの授業が公開されています。基本的にコンテンツは数週間かけて履修するコース形式で、視聴するだけなら価格は無料。コーセラ同様、修了証を取得することも可能で、その場合は有料となります。
尚、中にはより高度なスキルを身につける修了証付のプログラムもあり、その場合は$300などエントリー自体が有料になるものもあります。サイトは基本は英語・スペイン語表示となりますが、コンテンツ自体は提供大学によって異なり、例えば中国の清華大学が提供するコースは中国語にも対応しています。
JMOOC
対象:大学生以上・生涯教育
言語:日本語
費用:原則無料、対面学習は有料
内容:アート・デザイン、教育、健康・医療、工学、コンピュータサイエンス、自然科学、社会科学、人文科学、統計・数学、ビジネスと経営、資格・試験対策、理工系基礎科目 など
日本オープン・オンライン教育推進協議会が運営する、複数の国内MOCCを包括するプラットフォーム。Fisdom、gacco、OpenLearning,Japan、OUJ MOOCといった、4つのMOOCに対応しています。
日本オープン・オンライン教育推進協議会は早稲田大学理工学部教授で総長も務め、現在は放送大学学園理事長も務める白井克彦氏が代表を務める団体です。大学などからの提供コンテンツは140コース以上あり、25万人が利用しています。
スクー(Schoo)
対象:社会人・フリーランス
言語:日本語
費用:無料(有料コースあり)
内容:自己啓発、ビジネススキル、語学、デザイン、健康、IT 他
毎日生放送の形式でコンテンツが配信されるサービス。ここまで紹介してきたMOOCが義務教育や学士・修士課程の補完となっていたのに対し、スクー(Schoo)はよりエンタメコンテンツに近い内容となっています。視聴するだけであれば無料で、プレミアコンテンツの視聴や資料ダウンロードなどは月額費用(1,000〜2,000円)が発生します。
その他
今回詳しくはご紹介しませんが、ユーダシティ(Udacity) も有名なMOOCです。社会人向けのIT・コンピュータサイエンス授業が英語で無料提供されています。企業の採用活動とも連携しており、FacebookやGoogleなどIT企業が協力するなど質の高いIT教育が強みです。
また、もはや知らない人はいないであろう、「TED」もMOOCに含めて差し支えないでしょう。
番外(日本国内で特定企業が提供する動画授業)
オープンプラットフォームとして、様々な大学・組織や個人がコンテンツを提供するMOOCに対して、企業が事業として手がけるオンライン授業コンテンツの中にも、いくつか注目すべきものがあります。ここでは日本国内の特定企業が提供するコンテンツをご紹介します。
対象:中学生・高校生
言語:日本語
費用:視聴は無料、質問は500円/回
内容:英語、数学、理科、社会の4科目は中学高校レベル、国語は高校レベルのみ
アルプスの少女ハイジのCMでおなじみの「家庭教師のトライ」が運営する、中高生向けサービスです。1本15分ほどの動画が単元ごとに用意されており、無料なことから授業の予習や復習に利用できます。家庭教師や教室事業との連携があるため、講師に有料で質問することもできます。
スタディサプリ … 国内・小〜高校生向け、リクルート運営、月額980円〜9,800円
ユーデミー(Udemy) … 国内・社会人向け、ベネッセ運営、ITやコンピュータサイエンスの授業を受講したい人と授業を公開したいユーザが結びつくプラットフォーム、有料(〜24,000円)
まとめ
今日はMOOCについていくつか具体的なサービスを挙げながら見ていきました。MOOCのメリットは「意欲さえあれば、国や貧富の差を超えて誰もが学ぶチャンスを得られる」こと。
特に発展途上国において、質の高い授業を受けられない人や、留学を志しているものの費用が賄えない、といった人にとっては、安価で最高峰の授業を受けられる素晴らしい機会となります。また、学習者は分からなかったポイントを何度も再生し直すことができ、自分のペースで学習が進められます。
このようにMOOCにはたくさんのメリットがある一方で、双方向性のある授業づくりや、学習意欲の無い人のモチベーションの維持はできません。
face to faceの授業と上手く組み合わせることで、教育や学習の効果を高めることが望ましいでしょう。また、社会人の方がリカレント教育の一環でMOOCを利用するのは非常にオススメです。ぜひ気になる授業があれば、無料のものから挑戦してみてくださいね。
[文責=くぼようこ]
※ Educediaは主宰者の研究・論考を目的としています。記事に含まれる情報は、読者の皆様ご自身の責任においてご利用ください。また、本記事の情報は記事公開時のものであり、最新の情報とは異なる可能性があります。
他、転載や引用については「サイトポリシー」をご覧ください。
[関連記事]
▽記事のアップデート情報や注目のトピックスをお知らせしています