(詰め込み型教育ではなく、ゆったりと子どもの感性に働きかけながら教育を行うシュタイナー教育。日本では黒柳徹子さんや斎藤工さんが卒業生として知られている。)[画=photoAC/acworks]
前回記事ではモンテッソーリ教育に注目しました。今日は幼児期の多感な時期に刺激を与えない、自然との触れ合いや芸術的な教育を重視し、ゆったりとした環境で子どもの自発的な学びを支援するシュタイナー教育に注目します。
シュタイナー教育とは
シュタイナー教育とは、オーストラリア出身の哲学者ルドルフ・シュタイナーが第一次世界大戦後の1919年、ドイツで提唱・実践した教育方法。
黒柳徹子さんや俳優の斎藤工さんもシュタイナー教育を実践するシューレ(ドイツ語で「学校」のこと)に通学していたことでも知られています。
黒柳徹子さんの「窓ぎわのトットちゃん」を読んで、トットちゃんが通学していたトモエ学園の、自由でのびのびとした環境に憧れた方も多いのではないでしょうか。シュタイナー教育は知識詰め込み型教育ではなく、子どもの感性を伸ばし、自発的な学習意欲を育てることに重きを置いています。
現在世界90ヶ国に1,000の学校、2,000の幼稚園があります。
日本国内ではシュタイナー教育と呼ばれますが、海外ではヴァルドルフ教育と言われます。世界のシュタイナー学校や幼稚園については、2019年にシュタイナー教育が100周年を迎えるにあたっての以下記念ムービーでも紹介されています。
0歳〜21歳までの3段階を通じ人間性を確立
シュタイナー教育は子どもの発達を、身体を育てる0歳〜7歳(幼児教育段階)、心を育てる8〜14歳(初等・中等教育段階)、知性を育てる15〜21歳(高等教育段階)の3段階に分け、段階毎に適切な能力の育成を行うことで人間性の確立を目指します。
0〜7歳はからだを育てる
身体をよく動かし、自我を育てることが重要な時期。
周囲の物事に非常に敏感な時期だからこそ、刺激を与えすぎず、子どもが安心して過ごせる環境で育てることを重視します。そのためシュタイナー教育を実践する幼稚園では、子ども達はピンクを基調とした部屋で過ごし、木やふわふわした素材の玩具を用いて遊びます。
「テレビを見せない」「キャラクターグッズは禁止」?
シュタイナー教育でしばしば言われる「テレビを見せない」というのは、テレビは刺激が強く、情報を受け身に消費させることになるため。
積み木など子どもの手指に刺激を与える優しい自然素材の玩具を通じ、イマジネーションを育てることが重視されます。
また「キャラクターグッズの禁止」もよく言われます。キャラクターは動物や人物など、自然のありのままに存在するものをデフォルメしています。ディテールから子どもが受け取れる情報を遮断し、感性の育成を阻害することから良しとはされません。
ずっとテレビもキャラクターも禁止なのではなく、就学した後は子どもの発達段階に応じ触れる機会は増えていきます。
8〜14歳は心を育てる
心や感情を育てることが重要な時期とされます。知識を椅子に座らせ教科書を通じ教え込むのではなく、芸術的な教育実践が行われます。
例えば教師が黒板に描く絵を子ども達が写しとったり、水彩画や物語、演劇を通じて学んだり、数学を学ぶ際には自然素材の教材を用いて、子ども達が木の実を使って自ら教材を作ったり、ということもあります。
初等・中等教育までは詰め込み教育を行わない
就学前から言語・数学教育を行うモンテッソーリ教育に対し、シュタイナー教育では就学前の幼児や初等中等教育段階の子ども達は、知識情報を教え込むにはまだ早い段階です。
シュタイナーシューレの教員は、学習指導要領に則り学習項目を子どもの頭に叩き込むのではなく、時間をかけても子ども達が様々なことを感じ取りながら学んでいく過程を重視します。したがって、初等中等教育段階では教科書が無いのも特徴(高等教育では教科書を用います)。
教科書は使わずエポックノートを作る
子ども達は授業の中で、エポックノートと呼ばれる、授業で学んだことや自ら調べたこと、絵や図を書き(描き)1冊の自分専用の学びのノートを作り上げていきます。 エポックノートは、低学年はクレヨン、中学年は色鉛筆、高学年になると万年筆で書かれるようになります。
学校法人シュタイナー学園のホームページでは、子どもたちのノートが紹介されています。興味のある方は見てみるとより具体的にイメージできるでしょう。
点数評価を行わない
試験を実施し点数で優劣をつけるのではなく、子ども一人一人の作るエポックノートなどを基に教員が評価を行います。
そもそもシュタイナーシューレは1クラスあたりの生徒数が非常に少人数に限られ、教員と生徒の関係性も密なことから、定性的な評価が可能になる、ということもあるかもしれません。
15〜21歳は知性を育てる
知的な完成を目指す段階です。
15歳以降になると、教科書を用いて授業が開始されますが、感性を育む教育の基本は変わらず重視されます。ここまでシュタイナー教育を通じ学んできた子ども達は、比較的ゆったりと知識を吸収してきたことから、これまでの他校に通う子ども達との学習内容の差を追いかけるように学んでいくことになります。
シュタイナー教育の特徴的な授業科目
オイリュトミー
音楽や言葉にあわせて身体を動かし、即興演技を行う芸術活動です。リトミックに近しいとも言われます。
シュタイナー教育を実践する学校では、幼稚園〜高校まで専門科目としてオイリュトミーが導入されます。神秘的な感覚と身体的なアウトプットを繋げる、シュタイナー教育独特の芸術教育です。
フォルメン線画
小学校1〜4年生まで取り組むフォルメン線画は、教員に手ほどきを受けながら、子ども達が定規やコンパスなどを使わずに、自らの手で直線や曲線を自由自在に描けるようになる練習です。高学年に近づいていくと、徐々に模様は複雑になります。自身の感覚や感性をそのまま腕・手指を使って具現化できる力を養います。
他にも土に触り自然や生命を感じる園芸の授業や、幼稚園では水彩絵の具に水滴を垂らして偶発的な色の広がり・混ざりで子どもの想像を育むにじみ絵など、シュタイナー教育には特徴的な授業がいくつもあります。
今日はシュタイナー教育に注目して見ていきました。ここまで見てきた特徴の他にも、シュタイナー教育を実践する学校では、初等中等教育の8年間では担任が変わらない、非常に少人数で家族のような関係の中で学校生活が進んでいく、などの特徴があります。
前述したシュタイナー学園のホームページには俳優・斎藤工さんのインタビューも掲載されているので、見てみるとより具体的な雰囲気が掴めることでしょう。
[文責=くぼようこ]
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