(人間は脳が不完全な状態で生まれ10年かけて育つ。脳の発達の伸びしろが大きい10歳までの親とのスキンシップや質の良い教育が重要だ)[画=photoAC/RRIce]
子どもの発達を考えるにあたり、脳の働きを考慮することは欠かせません。そこでここから数回にわたり「脳」について調べていきたいと思います。
子どもの脳はどう育つ?
人間は身体も脳も、様々な点で未熟な状態で誕生します。そして10年以上かけて成人となっていくわけですが、身体はゆっくりとなだらかに成長していくのに対し、脳は生まれてすぐ爆発的に成長し、そこから10年でほぼ成人と同じレベルに達します。ここでは子どもの脳の発達について、①重量 ②シナプス ③機能の3つから見ていきます。
10歳で脳の重量は大人並に
大人の脳の重さはおよそ1300〜1400g程度。対して赤ん坊は大人の3分の1、4分の1程度の重量である300〜400gで生まれ、10年かけて大人と同じ重量まで育ちます。脳が未成熟のまま生まれるのは、人間が進化の過程で二足歩行を始めたことで産道が小さくなり、母胎の中で十分に発達できなくなったから、と言われています。
生後シナプスは増えて10歳までに半減
「シナプス」という言葉を聞いたことはありませんか?人間の学習や記憶など「頭の良さ」に関わる部分です。
シナプスとは?
脳は千数百億個の「神経細胞(ニューロン)」で構成されています。この神経細胞からは信号の入力・出力を行う、機能の異なるいくつもの枝分かれが伸びています。これが他複数の神経細胞の枝分かれと結びつくことで回路を作り出します。この枝分かれした神経細胞(ニューロン)同士の結合を「シナプス」と言い、このシナプスの中を信号が駆け巡っていくことで脳が働くと言われています。
よく使われるシナプスは強化される
誕生してから8ヶ月間で、赤ん坊の脳の中では神経細胞同士が一時過剰に結合し、シナプスが形成されます。しかし8ヶ月経つと、形成されたシナプスから不要なものは弱体化・除去されていき、10歳までに半減。以降は50年近く一定に保たれます。
信号が繰り返し走るとそのシナプスは強化され、それが人間の学習・記憶に繋がっていると考えられています。シナプスの弱体化・半減は「シナプスの刈り込み」と言います。だからシナプスの数が定まる10歳までに、子どもの脳に様々な良い刺激を与えると良いのでは、と提唱するグループがあるわけです。
機能の発達は3歳 | 7歳 | 9歳がターニングポイント
子どもの脳は3歳までに、生きるために必要な動作を司る部分が発達します。そして7歳頃までは、記憶や運動能力、自己認識や自制心などの部分が発達するようになります。そして9歳までに他者の心を考え、社会規範を身につけ、深く思考し、抽象化して考えることができるようになっていきます。
[画=イラストAC/上田ひろこ]
生後〜3ヶ月
脳の中でも「延髄」「橋(きょう)」と呼ばれる部分において神経が発達していきます。新生児には大きな音や温度変化などに驚くと両腕を広げ母親にしがみつくような動作をする「モロ反射」や母親の乳首を探し出し吸う「吸啜反射」といった「原始反射」が見られますが、それはこの中枢神経の発達によるものです。
生後4ヶ月
「中脳」の部分が発達することで、姿勢をまっすぐにして座れるようになります。また物を掴む・握る動作ができるようになります。
生後6ヶ月
大脳の表面「大脳皮質」における神経発達が進んでいきます。この頃には体のバランスが取れるようになり(平衡反応)、つかまり立ちや伝い歩きなどもできるようになります。自我が芽生え不服なことには泣くことで意思表示し、人見知りをしたり、恐怖を感じたり、喃語を話すようにもなります。
生後8ヶ月
シナプスの密度が最大となります。シナプスが必要以上に繋がっている状態のため、指全体を握って開くことはできても、特定の指だけを動かすようなことはまだできません。シナプスの刈り取りが進んでいくと、細かな動きができるようになっていきます。
1歳
脳の重さは生後の300〜400gから800g程度まで成長しています。脳は後頭葉(脳の後ろの部分)から成長し、1歳になるまでに五感を担う脳の部分や運動機能が育っていきます。その後は独り歩きが可能になったり、単語を発語するようになったり、自我や徐々に性格が露わになっていきます。
1〜2歳頃に見られるイヤイヤ期というのは、論理性や自制心などを司る前頭葉が未発達だから起こると言われています。五感が鋭敏になり、自我が芽生えているところに、論理的に理解する、我慢する前頭葉の働きが弱いのが要因です。
[画=イラストAC/上田ひろこ]
3歳〜6歳
3歳で脳の重さは1kgを超え、5歳頃には1.2kgとなります。前頭葉が育っていく過程で、様々な現象の認知や理解が可能になったり、想像ができるようになり現実と空想の違いを理解するようにもなります。
7歳〜9歳
脳の発達が進み、自問自答し、思考することができるようになり、抽象的な物事を理解できるようにもなっていきます。
生涯成長する脳の「可塑性」
9歳までに数が一定まで減数されるシナプスですが、ある程度の高年齢に達するまでシナプス自体の強化は行われ続け、学習成果や記憶は蓄積されていきます。これを脳の「可塑性」といいます。
今日は子どもの脳の発達について見ていきました。親や大人が一見して理解できない、子どものイヤイヤ期などの行動も、発達脳科学を学ぶことで腑に落ちることがあります。
次回は今日の記事でも一部登場しましたが、具体的な脳の構造と機能を見ていきます。
[文責=くぼようこ]
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