(私たちは無意識に犬と猫を見分けられる。でもなぜ見分けられるのだろう?)[画=photoAC/ゆりと]
子どもの発達や人間形成について考える上で「神経科学(脳科学)」と共に考えたいのは「認知科学」。心理学においては認知科学が主流のアプローチになっていると言われます。今日はそもそも「認知科学」とは何?ということについて。
認知科学とは
認知科学は英訳では「Cognitive Science(コグニティブ・サイエンス)」と呼ばれています。
認知科学の研究は1970年頃からスタートしました。人間の心の動きや物事の知覚などについて、機能的に理解しようとする学問です。
認知科学は6学問にまたがる
認知科学は様々な学問領域が融合した「学際的」な学問と言われています。
具体的には「心理学」「人類学」「言語学」「神経科学」「情報科学(人工知能研究)」「哲学」にまたがっています。(以下図を参考)
それまで心理学は、行動心理学と呼ばれる、人間の行動の原則を解き明かすアプローチが主流でした。しかしコンピュータサイエンスの研究が進むに伴い、人間はどのように情報処理を行うのか(=物事を認知するのか)という認知心理学のアプローチが主流になってきた、と言われています。
認知科学は教育にどう関係?
認知科学は喜怒哀楽の心の動きだけではなく、どのようなプロセスで人が物事を学習していくのか、ということも解き明かしていきます。
例えば私たちは、犬と猫をどう見極めるか。以下の写真には犬と猫のフィギュアが写っています。私たちは無意識に、右上のフィギュアだけが猫だと選びとれますが、なぜ他の5体は犬で、右上だけ猫と識別できるのでしょうか。
[画=photoAC/TARTAN]
スイスの心理学者ジャン・ピアジェは人が学習していくステップを「シェマ」「同化」「調節」の3つで説明しました。
「シェマ」「同化」「調節」
まず5体の犬のフィギュアを見せられて、子どもがそれを「犬」と教わるとします。すると子どもはそれぞれ個体は異なるものの、「犬」と言われるものの共通点を見つけます。これが「シェマ」です。
今度、猫のフィギュアを見せられた時に、経験則から子どもがそれを「犬」だと言います。持っているシェマを他のものに当てはめようとする行為を「同化」といいます。
しかし子どもは母親から「これは猫よ」と教わります。すると子どもは新しい「猫」というものを認識し、犬のシェマと区別するようになります。これを「調節」といいます。
こうした経験が蓄積されていくと、例えば大きく黒い犬の鼻、猫の小さい鼻とへの字の口、長いヒゲやしっぽなど、人は意識しなくても犬と猫を見分けるようになっていくわけです。
こうした人間の学習方法は、人工知能に大量のデータをインプットし、共通項を見つける中で学習していく深層学習にも応用されています。
認知科学は神経科学とどう違う?
神経科学は認知科学と共に、人の発達を考える上では重要な学問です。脳神経上で電気信号がどのように働き、ホルモンが分泌され人間の行動や認識に影響を与えるかなどを解き明かす神経科学に対し、認知科学は上で紹介したように、どのように人が物事を認知し、認知の誤りを修正しながら学習していくかを解き明かす学問と言えそうです。
前回記事で紹介したOECDの書籍でも、神経科学は学際的な(複数の学問領域にまたがった)研究・活用が重要とありました。本ブログでは引き続き脳科学・認知科学について学習を進めます。
[文責=くぼようこ]
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