(高プロを含む働き方改革関連法案のパッケージが5月25日、衆院厚労委員会で可決した。6月20日国会閉会までに法案成立が目指されている。)[画=photoAC/はむぱん]
2018年4月6日に第196回国会に提出された働き方改革関連法案。安倍政権は法案成立に意気込む一方、裁量労働制に関するデータの正確性に不備、高度プロフェッショナル制度などへの懸念など課題は山積。今日は働き方改革関連法案のポイントを整理します。
働き方改革関連法案とは?
仕事に従事するにあたって、私たちの権利や雇用側の義務はさまざまな法律によって定められています。
まず労働者の基本的な権利(1日の労働時間や休憩時間など)や企業の義務、各種規則などを定めた「労働基準法」。危険な環境などでの労働や職場環境の衛生に関する「労働安全衛生法」、アルバイトやパートタイマーの権利や契約に関する取り決めを行なっている「パートタイム労働法」、企業と労働者の間で結ばれる労働契約に関する「労働契約法」、派遣労働者に関する制度「労働者派遣法」です。
働き方改革関連法案は、これらの労働に関するさまざまな法律の改正案を複数束ねたパッケージです。
厚生労働省のWebサイトを基に、以下にポイントをまとめていきます。
残業時間の上限・休暇制度の見直し
[画=photoAC/Hades]
時間外労働時間の上限を設け、一定時間以上の残業にはより高い時間外労働手当を定め、企業には有給休暇の社員の強制取得と社員の労働時間の実態管理を義務付けることとしました。
時間外労働時間に上限
これまで時間外労働時間というのは、いわば「努力目標」のような「原則」と呼ばれる上限と、半年間は労働時間に制限がかからないという「特例」がありました。
企業は社員に1日8時間以上労働させる(=残業させる)場合には、36協定を結ぶ必要がありました。36協定を結ぶことで、企業が月45時間まで残業をさせることが可能になります。これがいわば「努力目標」。
一方で、繁忙期や大規模クレーム対応など、業務上の特別な事由により残業が必要なケースがある場合。特別条項付き36協定を結べば、企業は1年の半分は月45時間以上残業をさせることが可能となっています。
特別条項付き36協定では企業ごとに1ヵ月で可能な残業時間を定め、割増賃金率を設定しています。
今回の改正では、特別条項付き36協定があったとしても、社員の残業時間の上限を年720時間(月にならすと60時間・週15時間・1日3時間)、休日労働を含む月100時間未満とするとしています。
割増賃金の増額
労働者に残業をさせる場合、企業は割増賃金を支払う必要があります。
月45時間までの残業には25%、月60時間を超えると50%の割増賃金を支払うよう、平成22年からの改正労働基準法で定められています。
しかし月60時間を超える時間外労働に対しては、これまで中小企業は割増賃金(50%以上)を支払う必要がありませんでした。
しかし2023年からは、中小企業にも対象が広がることとされています。
有給休暇の取得
年10日以上有給休暇が付加される労働者には、内5日間を毎年必ず有給取得させなければならない、というものです。
有給は、6ヵ月以上の継続勤務と労働時間として定められた時間の8割出勤することで年10日から付与されますが、消化できていないケースも多く見られます。
そこで企業は5日有給取得させることが義務となり、従業員が自発的に5日取得しなければ、時季を指定して5日間取得させなければりません。(従業員が自発的に5日取得すれば不要)
勤務間インターバル制度の推進
前日と当日の勤務時間に一定の時間以上のインターバルを設ける制度です。インターバル時間には明確な決まりがこれまでありませんでしたが、これを11時間とする方向で審議が進んでいます。
例えばある日の退社日が夜22時だった場合、翌日の出社時間は朝9時以降でなければなりません。
柔軟な働き方の実現
一方で、柔軟な働き方の実現に向けては、フレックス制の更新や高プロなどの制度が検討されています。
フレックス制の清算期間見直し
フレックス制とは、一定の期間内の所定労働時間の枠内で、労働者が事由に始業・終業時間を選べる制度のこと。
この「一定の期間内」は清算期間と呼ばれ、これまでは1ヵ月が上限でした。
つまり1ヵ月の所定労働時間が月160時間だった場合に、子どもの保育園の送り迎えの関係で月〜木は8時始業で17時終業、金曜日は9時始業で18時終業とできる、というように日によって始業・終業時間を調整できる仕組みです。
しかしそれでは1ヶ月の間で就業時間をコントロールできても、複数月にまたがって調整することはできません。
それが今回の法改正では清算期間が3ヵ月上限となり、例えば保育園や小学校の通園・通学が始まった4月は就業時間を短くし、慣れてきた6月に就業時間を長くとる、ようなことも可能となります。
高プロ(高度プロフェッショナル制度)の導入
今回の働き方改革関連法案で過労死を増やすとして話題になっているのが高プロ。年収1,075万円以上の金融ディーラーやコンサルタントなどを対象に、就業時間の定めがなくなり、残業時間の上限や残業代・割増賃金率の設定などが廃止される仕組みです。
▼高プロについては以下の記事を参照してください。
同一労働同一賃金
同じ業務にあたり、同じ業務責任を負っているにも関わらず、正社員の方が給与・手当などの福利厚生面でアルバイトより高い・採用条件が良いケースはママあります。
これを是正し、非正規雇用の労働者も同じ業務をしている以上は同等の待遇を行う、というのが同一労働同一賃金の考えです。
非正規雇用社員でも、正規社員と同じような待遇が得られることが期待されます。一方で日本郵政グループのように既存の正社員の既得権益を廃止することで、限りある原資の公正な分配を目指す企業の動きもあります。(参考:正社員の待遇下げ、格差是正 日本郵政が異例の手当廃止:朝日新聞デジタル)
日本郵政グループは日本郵政・日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の4社で、転勤のない正社員2万人の内、住宅手当を受け取っている5千人の住宅手当を段階的に廃止し、一方で非正規雇用社員に、一部の手当の支給を認めることを発表しました。
このように、限りある人件費をいかに分配していくか、企業側と労組との折衝は続いています。
働き方改革関連法案の課題点
本法案はここまで見てきたように、主に①長時間労働 ②柔軟な働き方の実現 ③同一労働同一賃金 の3つのために検討されています。
しかし裁量労働制の根拠として提示されたデータに不備が見つかったり、「高プロ」のように、企業側の論理で規制緩和になったものが、じわじわと対象拡大し、一般の労働者にとって不利になるのでは、という懸念があるものもあります。
2018年5月25日、衆院厚労委員会で働き方改革関連法案は半ば強引に可決され、29日は衆院通過と見られています。国会閉会の6月20日まで1ヵ月を切りました。今後の審議に注目です。
[文責=くぼようこ]
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